ジャクソン・ポロック

ジャクソン・ポロック：アクション・ペインティングの先駆者

ジャクソン・ポロック(1912年-1956年)は、20世紀アメリカを代表する画家の一人であり、抽象表現主義、特にアクション・ペインティングの巨匠として知られています。彼の革新的な画法と奔放な生き様は、現代美術に多大な影響を与え続け、現在もなお人々を魅了し続けています。

生い立ちと初期のキャリア

ワイオミング州コーディで生まれたポロックは、1928年にロサンゼルスのマニュアル・アーツ・ハイスクール、その後ニューヨークのアート・スチューデンツ・リーグで美術を学びました。リーグでは、アメリカン・シーン派の巨匠トーマス・ハート・ベントンに師事し、写実的な画法を習得しました。しかし、ポロックは後に、無意識的な表現へと傾倒していくことになります。

1930年代半ばから1940年代初頭にかけて、ポロックは公共事業促進局(WPA)の連邦美術計画に参加しました。この計画は、大恐慌時代のニューディール政策の一環として、多くの若手画家たちに公共施設の壁画制作などの機会を提供したものです。ポロックも壁画制作に参加し、メキシコ壁画運動の巨匠ダビッド・アルファロ・シケイロスらの助手を務めました。シケイロスらによる、スプレーガンやエアブラシを用いた大規模な壁画制作は、ポロックの画風に大きな影響を与えたと言われています。また、この頃からアルコール依存症に悩まされるようになり、精神分析の治療を受けていました。

アクション・ペインティングの誕生

第二次世界大戦中のシュルレアリストとの交流や、ピカソ、ミロといった巨匠たちの影響を受け、ポロックは次第に無意識的なイメージを重視する表現へと移行していきます。1943年頃より、キャンバスを床に置き、刷毛やコテを用いて絵具を空中から滴らせる「ドリッピング」と呼ばれる独自の技法を開発。1947年にはこの技法を完全に確立し、彼の代表作となる数々の作品を生み出します。

この新しい画法は、批評家たちから賛否両論を巻き起こしました。批評家のクレメント・グリーンバーグは、ポロックの画業を絶賛しましたが、一方で、マスコミからは揶揄されることもありました。ポロックの技法は、インディアンの砂絵や、無意識的な表現を重視するシュルレアリスムの影響を受けているとも言われています。

ポロックのアクション・ペインティングは、「オール・オーヴァー」と呼ばれる特徴的な様式を示しています。これは、絵画全体に絵具が均質に広がり、「地」と「図」の区別が曖昧になっている様式です。この様式は、他の抽象表現主義の画家たち、例えばバーネット・ニューマンやマーク・ロスコの作品にも見られる共通点です。批評家のハロルド・ローゼンバーグは、ポロックの絵画を「アクション・ペインティング」と呼び、絵画そのものよりも、制作過程そのものが重視されていると評しました。

混迷期と最期

1950年代に入ると、ポロックはアメリカを代表する画家としてのプレッシャー、アルコール依存症の再発、そして新たな表現方法の模索といった困難に直面します。黒一色の作品や、具象的な作品、再び色彩豊かな抽象作品など、様々な試行錯誤を繰り返す中で、彼の創作活動は混迷を極めていきます。

1956年8月11日、ニューヨーク郊外で酒に酔った状態で自動車事故を起こし、44歳の若さで命を落としました。彼の死は、多くの美術愛好家たちに衝撃を与えました。ポロックの生涯は、映画『ポロック 2人だけのアトリエ』として映像化され、彼の複雑な人生と芸術が改めて注目を集めました。

代表作

ポロックの代表作には、『五尋の深み』（1947年）、『カット・アウト』（1948年-1956年）、『秋のリズム：ナンバー30』（1950年）、『No. 5, 1948』（1948年）などがあります。『No. 5, 1948』は、2006年に絵画競売において最高落札額を記録しました。これらの作品は、世界中の美術館に所蔵され、現在も多くの鑑賞者を魅了しています。ポロックのアクション・ペインティングは、現代美術史における重要な位置を占め、その後多くのアーティストに影響を与え続けています。彼の芸術は、自由で奔放な表現、そして人間の深層心理を探求する試みとして、これからも高く評価され続けるでしょう。

もう一度検索