アルヒープ・クインジ

アルヒープ・イヴァノヴィチ・クインジは、19世紀後半のウクライナを代表する風景画家です。1842年頃にマリウポリで生まれ、6歳で両親を亡くすという過酷な幼少期を送りました。その後、様々な職を転々としながら独学で絵画を学び、その才能を開花させていきます。

初期のクインジは、イワン・アイワゾフスキーの影響を受け、海を題材とした作品を制作していました。しかし、次第に自然そのものに魅せられるようになり、1870年代半ばには、独自の風景画の世界を確立していきます。彼の作品の特徴は、自然の光の効果を巧みに捉え、濃密な色彩と高い地平線を用いたパノラマ的な構図です。特に、月光や夕焼けなど、光が織りなす美しい情景を描いた作品は、観る者に深い感動を与えます。

代表作としては、月明かりに照らされたウクライナの夜を描いた『ウクライナの夜』、白樺林の美しさを表現した『白樺林』、雷雨後の劇的な空模様を描いた『雷雨の後』、そして、ドニエプル川の静かな月夜を描いた『ドニエプルの月夜』などが挙げられます。これらの作品は、自然の美しさと神秘的な雰囲気を融合させ、クインジ独自の芸術性を際立たせています。

1870年には、巡廻美術展協会のメンバーとなり、作品を発表し続けました。1872年には、ペテルブルク美術アカデミーを退学し、フリーの画家として活動。1892年には、ペテルブルク美術アカデミーの教授に就任し、後進の育成にも尽力しました。しかし、1897年には学生の抗議を支持したことで解任されています。門下生には、アルカーディ・ルィコフやニコライ・レーリヒ、コンスタンチン・ボガイェフスキーらがいます。

1909年には、自身の名を冠したA.I.クインジ美術協会を発足させ、美術界の発展に貢献しました。1910年、クリミア滞在中に肺炎を患い、サンクトペテルブルクに移送されるも、心臓衰弱のため69歳で生涯を閉じました。

クインジの墓は、当初スモレンスク正教会墓地にありましたが、1952年にアレクサンドル・ネフスキー大修道院のチフヴィン墓地に移されました。墓碑には、ニコライ・リョーリフがデザインしたモザイクパネルが飾られ、クインジの芸術的功績を称えています。

故郷マリウポリには、2010年にクインジ美術館が開館しましたが、2022年のロシアのウクライナ侵攻におけるマリウポリの戦いで破壊されました。彼の作品は、現在も多くの美術館に所蔵され、人々に愛され続けています。

クインジの作品は、単なる風景画ではなく、自然に対する深い愛情と哲学が込められています。彼の作品を通して、自然の美しさ、そして、生命の尊さを感じることができるでしょう。

代表的な作品
朝のドニプロ
マリウポリの天の川
ヴァラーミ島にて
忘れられた村
雷雨の後
ウクライナの夜
北
ドニエプル川の赤い夕日

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