アルファレトロウイルス属

アルファレトロウイルス属 (Genus Alpharetrovirus)

アルファレトロウイルス属は、RNAウイルスであるレトロウイルス科に分類される重要な属の一つです。レトロウイルス科のウイルスは、その特異的な増殖機構、すなわちRNAゲノムから逆転写酵素を用いてDNAを合成し、宿主細胞のゲノムに組み込むという特徴によって知られています。

形態的特徴

この属に属するウイルス粒子は、電子顕微鏡観察による形態分類において「C型粒子」として識別されます。C型粒子はレトロウイルスの代表的な形態であり、エンベロープと呼ばれる外膜の内部に、コアシェル構造とそこに内包される遺伝物質（RNA）が存在します。この形態は、ウイルスが宿主細胞から出芽する際の構造的な特徴を反映しています。

病原性

アルファレトロウイルス属のウイルスは、主に鳥類（野生種および家禽）およびラットなどの哺乳類に対して病原性を示すことが知られています。これらのウイルスによって引き起こされる疾患は多岐にわたり、細胞の異常な増殖を特徴とする肉腫や、それ以外の様々な形態の腫瘍形成が含まれます。また、赤血球の減少を伴う貧血といった血液系の疾患を引き起こすこともあります。これらの病態は宿主の健康状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。

属に含まれる主なウイルスとタイプ種

アルファレトロウイルス属には、学術的にも重要な位置を占めるいくつかのウイルスが分類されています。代表的なものとしては、鶏に肉腫を引き起こすウイルスとして発見され、ウイルスががんを誘発する最初の例として歴史的に非常に有名なラウス肉腫ウイルス（Rous sarcoma virus, RSV）が挙げられます。RSVの発見は、後に発がん遺伝子や腫瘍抑制遺伝子の研究という現代のがん研究の基盤を築く上で決定的な役割を果たしました。この他にも、鳥白血病ウイルス（Avian leukosis virus, ALV）や鶏骨髄芽球症ウイルス（Avian myeloblastosis virus, AMV）といったウイルスがこの属に含まれています。

このアルファレトロウイルス属のタイプ種、すなわち分類学上の基準となる代表的な種は、鳥白血病ウイルス（ALV）と定められています。タイプ種は、その属の基本的な特性を示すものとして、分類体系における位置づけや、新種の同定・比較において重要な役割を果たします。

もう一度検索