アルファロメオ・アルナ

アルファロメオ アルナ：日伊合作が生んだ小型車の栄光と影

アルファロメオ アルナは、1983年から1987年にかけてイタリアのアルファロメオと日本の日産自動車の合弁会社によって製造された小型大衆車です。この車は、アルファロメオの伝統と日産の技術が融合した、いわば異色の存在でした。しかし、その歴史は成功と批判が複雑に絡み合ったものとなっています。

日産パルサーとの共通点と相違点

アルナは、欧州名チェリーとして知られる日産パルサー(N12型)をベースに開発されました。しかし、単なるバッジエンジニアリングとは異なり、アルファロメオ伝統の水平対向エンジン、トランスミッション、そしてフロントサスペンションは、アルナ独自の設計となっています。ボディパネルは日産でプレス加工されたものをイタリアに輸出し、イタリアのプラトーラ・セラにある新工場で組み立てられました。この工場には日産の最新ロボット技術も導入され、日産チェリーヨーロッパもここで生産されました。

エンジンバリエーションと販売

発売当初は、アルファスッド譲りの1,166ccエンジンを搭載した3ドアと5ドアモデルがラインナップされました。その後、排気量1,300cc、1,500ccのモデルも追加され、1,500ccモデルは「日産チェリーヨーロッパGTI」としても販売されました。日本市場には輸入されませんでしたが、姉妹車のパルサーにはアルファロメオを意識した「ミラノX1」というスポーティグレードが設定されました。

賛否両論の評価

アルナは、発売当初から多くの批判にさらされました。アルファロメオ特有の電気系統のトラブルと、当時の日本車に見られたような個性のないデザイン、そして退屈なハンドリングが、大きな欠点として挙げられました。イギリスの自動車評論家、ジェレミー・クラークソンはアルナを「アルファロメオ唯一の駄作」と酷評し、実際に番組内で爆破するというパフォーマンスさえ行っています。

しかし、一方でアルナ開発に携わった関係者や歴史家からは、異なる視点も提示されています。イタリアの自動車歴史家マッテオ・リカタは著書の中で、1970年代後半、アルファロメオが経営安定化のためには年間31万台以上の販売が必要だと分析し、生産能力不足を補うためにアルナが開発されたと述べています。また、日産側の技術者によれば、日産も欧州進出を目指しており、パルサーの開発スケジュールとアルナ投入スケジュールが一致したことが、合弁事業成立の決め手だったとのことです。

開発過程では、パルサーの横置きエンジンをアルナの縦置きエンジンに変更するなど、設計変更も多くありました。ハンドリングと操縦安定性については、アルファロメオが「アルファスッドの持ち味」を重視し、日産との意見調整に苦労したという証言もあります。

イギリスのジャーナリストビル・ボディは、「モータースポーツ」誌でアルナのハンドリングやエンジン性能を評価し、セカンドカーとして適しているとも述べています。

アルナのその後

アルナの総生産台数は約5万3,000台。日産とアルファロメオの合弁事業は解消されましたが、日産側の技術者によれば、商業的には失敗ではなかったとしています。現在、アルナの現存数は極めて少なく、イタリア古典四輪二輪クラブ(ASI)は2019年にアルナを「歴史的車両」に認定し、イタリア政府も自動車税の減免措置対象に認定しました。

アルファロメオ アルナは、商業的にはある程度の成功を収めたものの、多くの批判にさらされた車でした。その存在は、異なる企業文化の衝突と、時代の変化を映す鏡と言えるでしょう。しかし、希少価値が高まった現在、アルナは自動車史におけるユニークな存在として、その歴史を刻んでいます。

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