アルフレート・フーゲンベルク

アルフレート・フーゲンベルク：実業家から政治家へ、そしてナチス政権下の栄光と転落

アルフレート・フーゲンベルク(1865-1951)は、ヴァイマル共和政期からナチス政権初期にかけて、ドイツの政界と経済界に大きな影響を与えた人物です。裕福な家庭に生まれ、名門大学で法律と経済を学んだ彼は、若くして汎ドイツ連盟設立に関わるなど、超国家主義的な傾向を見せました。

華麗なる実業界でのキャリア

官僚としてのキャリアを経て、1907年、フーゲンベルクは実業界へと転身します。フランクフルト・アム・マイン鉱業銀行支配人、そして巨大企業クルップの重役として活躍、鉄鋼業界や金融分野で手腕を発揮しました。第一次世界大戦中は、クルップの資金を基盤としたフーゲンベルク・コンツェルンを設立し、有力なメディア企業を傘下に収め、メディア王としての地位を確立しました。ベルリンの主要新聞や地方紙、さらには映画会社ウーファまでその支配下に置いたのです。

国家人民党党首としての台頭と挫折

政治家としての経歴は、国民自由党への所属から始まりましたが、第一次世界大戦後、保守的なドイツ国家人民党(DNVP)へ鞍替え。この政党は、ユンカー層や重工業資本家の利益を代表する右翼政党であり、フーゲンベルクは産業界の代表としてその中枢を担うことになります。1919年には国会議員となり、敗戦による国会の解体までその地位を維持しました。

党内では政府との協調路線に反対し、党首のヴェスタープをメディアの力を駆使して失脚させ、1928年、自らが党首の座に就きました。ヤング案への激しい反対や、政府への強硬姿勢は、国民的人気を博しましたが、同時に、国家人民党の支持基盤である実業界や農村からの離反を招くことにもなりました。1930年の選挙では、党の議席を大幅に減らし、ナチスの躍進を許す結果となりました。

その後も、鉄兜団やナチスと連携したハルツブルク戦線結成など、政府への抵抗を続けましたが、ナチスとは次第に距離を置くことになります。1932年の大統領選挙では、明確な支持候補を掲げず、党員の自由投票を容認するなど、その姿勢は一貫していませんでした。

ヒトラー内閣への入閣と急速な失脚

しかし、1933年1月、フーゲンベルクは、ヒトラー、パーペンらとともにシュライヒャー内閣を倒閣。ヒトラー内閣では経済相兼食糧農業相として入閣を果たします。この時、フーゲンベルクはヒトラーを「枠にはめてやる」と発言しており、ナチスをコントロールできるという過信があったと推測できます。

しかし、この期待は長くは続きませんでした。ヒトラーによる総選挙の実施に反対し、共産党の排除による与党の過半数確保を主張したフーゲンベルクは、ナチスの急速な勢力拡大の前に、次第に影響力を失っていきます。総選挙でナチスが圧勝すると、国家人民党はもはや必要のない存在となり、フーゲンベルクは1933年6月、世界経済会議での失策をきっかけに閣僚を解任され、国家人民党も解党に追い込まれました。彼のメディア帝国もナチスの支配下に置かれ、没落の一途を辿ることになります。

戦後

戦後、イギリス軍に拘束されたフーゲンベルクは、「同調者」として非ナチ化法廷にかけられましたが、無罪となりました。戦後も膨大な財産を維持し、1951年に西ドイツで死去しました。

フーゲンベルクの生涯は、ヴァイマル共和政末期の激動の時代を象徴するものです。その成功と失敗は、時代の流れと、彼自身の政治的判断、そして過信が絡み合った複雑なものでした。彼のメディア戦略や政治的駆け引きは、現代においても研究の対象となっています。

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