アル・ウッザー

ウッザー女神の概要と信仰

ウッザー女神は、かつて北アラビア地域で広く信仰されていた古代の神格です。彼女に関する最初の資料は、前イスラーム時代の遺跡から発見された碑文やビザンツの文献に見られます。また、イスラーム期以降はクルアーンや歴史書に言及され、彼女の存在は時代を超えて人々の心に残りました。

神名とその意味

ウッザーという名称は、セム系諸語において形式が異なり、リフヤーン語や古アラビア語では「ʿzy」、ナバテア語では「ʿzʾ」、アラム語では「ʿzyʾ」となります。イスラーム期以降のアラビア語では「ʿUzzā」と読み、ウッザーの意味は「非常に強い力」を示します。

信仰の基盤

ウッザー女神の本質についての確定的な理解はまだ得られていません。彼女が金星の擬神化であるとの説が存在する一方で、『イスラーム百科事典第2版』においてはその根拠が薄いとされています。古代の神々と同一視されることも多く、ギリシア神話のアプロディーテーやアラビア神話のラート女神などとの関連も指摘されてきましたが、確固たる証拠は見つかっていません。

信仰の広がりと巫者

紀元1世紀から7世紀の間に、ウッザー女神の信仰はハウラーンやシナイ、ペトラ地域で根付いていました。特にナバテア人は彼女を深く敬い、アプロディーテー女神と相互に影響を及ぼしながら祭祀を行っていました。ギリシアの文献に記されたところによると、女神に捧げられる犠牲や祈りは一般的に行われており、ウッザーの名を冠した人名も数多く確認されています。

最高神とウッザーの関係

ウッザーは、イスラーム誕生前には特にクライシュ族に信仰され、メッカ周辺では重要な存在と考えられていました。特に、彼女の神殿が存在したナフラの地は「ヒマー」と呼ばれ、聖域として崇められていました。この聖域には、ウッザーの化身とされる3本のアカシアの木が生えていたと言われています。

ウッザーに捧げられた祭祀

預言者ムハンマドの時代、ナフラの禁域はクライシュ族が管理しており、ウッザーへの信仰は周囲の部族から特に強く支持されていました。ウッザーと共にラートやマナートも崇拝され、彼女たちは至高神の娘たちとされていました。歴史書によると、ウッザーへの祭祀や象徴的な供物は日常的に行われ、多くの信者が参加していました。

ウッザー女神の終焉

ウッザー女神に捧げられた祭祀は、イスラームの普及に伴い次第に衰退していきました。預言者ムハンマドの命令により伝統的な祭祀が廃止され、禁域にあった聖なるアカシアの木が伐採されたことは、彼女の影響力が失われていった象徴的な出来事と考えられています。ウッザー女神の存在は、古代アラビアの宗教的多様性を反映しており、その信仰は歴史の中で重要な位置を占めていました。

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