アレクサンダル・ヴチッチ

アレクサンダル・ヴチッチ：セルビアの変革を担う政治家

アレクサンダル・ヴチッチ（Александар Вучић、1970年3月5日 - ）は、セルビアの政治家であり、2017年から第5代大統領を務めています。彼は、2008年にウルトラナショナリズムを掲げるセルビア急進党を離党し、セルビア進歩党の結党メンバーの一人となりました。

ヴチッチは、2012年から2014年まで副首相を務めた後、2014年から2016年と2016年から2017年の二度にわたりセルビアの首相を務めました。それ以前にも、セルビア国会議員、1998年から2000年には情報相、2012年から2013年には国防相を務めた経験を持ちます。2017年の大統領選挙で当選し、同年5月31日にトミスラヴ・ニコリッチの後任として正式に就任しました。

生い立ちと教育

ヴチッチは、ベオグラードでアンジェルコとアンゲリナ・ヴチッチの間に生まれました。彼の父方の祖先は、ボスニア・ヘルツェゴビナ出身で、第二次世界大戦中に迫害を受けベオグラード近郊に移住しました。ヴチッチの父方の祖父アンジェルコを含む数十人の親族が、ウスタシャによって殺害されたとされています。母親はヴォイヴォディナ出身で、両親ともに経済学を専攻していました。父親は経済学者、母親はジャーナリストとして働いていました。

ヴチッチは、ノヴィ・ベオグラードで育ち、ブランコ・ラディチェヴィッチ小学校を卒業後、ゼムンのギムナジウムを経て、ベオグラード大学法学部を卒業しました。その後、イギリスのブライトンで英語を学び、ロンドンで商人として働いた経験もあります。ユーゴスラビアに帰国後は、ボスニア・ヘルツェゴビナでジャーナリストとして活動し、政治家のラドヴァン・カラジッチにインタビューしたり、ラトコ・ムラディッチ将軍とチェスをしたこともあります。ヴチッチは、レッドスター・ベオグラードの熱心なファンで、1990年5月13日のディナモ・ザグレブとの試合にも居合わせていました。

政治キャリア

1993年、ヴチッチはセルビア急進党に入党し、同年の総選挙で国民議会議員に選出されました。1995年には、党の幹事長に就任し、サラエヴォ包囲中の軍隊を訪問した党員の一人でもありました。1996年の地方選で彼の党が勝利した後、初の公職としてピンキ・ホールの館長に就任しました。

情報相時代（1998年～2000年）

1998年3月、ヴチッチはミルコ・マルヤノヴィッチ政権の情報相に任命されました。研究者たちは、彼を20世紀末のセルビアにおけるメディア政策を形成する上で重要な人物と評しています。ミロシェヴィッチ政権に対する批判が高まる中、ヴチッチは政府を批判するジャーナリストに罰金を科し、外国のテレビ局を禁止しました。2014年には、当時の自分が誤っていたことを認め、「すべての政治的過ちを告白することを恥じていない」と述べています。

この時期、セルビアのメディアは少数民族を悪魔化し、セルビア人の残虐行為を正当化するプロパガンダを流しました。1998年には、ヨーロッパで最も制限的なメディア法を採択し、違反行為を裁くための特別軽犯罪裁判所を創設しました。この法律は重い罰金を科し、支払われない場合は財産を没収する権限を与えていました。セルビアのメディアは国家の厳しい弾圧を受け、外国メディアは「異分子」や「スパイ」と見なされました。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、コソボで死亡したアルバニア人を「テロリスト」ではなく「人々」と呼んだことで、5人の独立系新聞編集者が起訴されたと報告しました。1999年3月のNATOによるユーゴスラビア空爆後、ヴチッチはベオグラードの編集者会議を招集し、印刷メディアにすべてのコピーを省に提出して承認を得るよう命じました。また、NATO諸国のジャーナリストを国外追放しました。

急進党から進歩党へ

2008年9月6日、急進党の副党首であったトミスラヴ・ニコリッチがEU加盟の是非をめぐり党と対立し、辞職しました。彼は、他の有力党員と新会派「進め、セルビア！」を結成し、同月12日には急進党から追放されました。ヴチッチ書記長も会議に招待されましたが、彼は欠席しました。ニコリッチは新党結成を発表し、ヴチッチにも参加を呼びかけました。

ヴチッチは、2008年9月14日に急進党を離党し、翌日には一時的な政界引退を表明しました。同年10月6日にはテレビインタビューで、ニコリッチの新党であるセルビア進歩党（SNS）に入党し、副党首に就任することを表明し、自身の政治的立場を大きく変化させました。2010年には、スレブレニツァでの虐殺事件について「恐ろしい犯罪が行われた」と述べ、行ったセルビア人を「恥ずべき」と感じていると発言しました。彼は「私は変わったことを隠していない。むしろ誇りに思っている」と述べました。2012年のAFPのインタビューでは、「私は間違っていた。国家のために最善を尽くしていると思っていたが、結果として私たちは失敗した。そのことを認める必要がある」と語りました。

2012年5月24日、ニコリッチがセルビア大統領に選出されたことを受け党首を辞任したため、ヴチッチが党首を務めることになりました。同年9月29日には、ヴチッチが正式に党首に選出されました。

国防相と第一副首相の兼任（2012年～2014年）

ヴチッチは、2012年7月から2013年8月まで国防大臣と第一副首相を兼任していましたが、内閣改造により国防大臣を退任しました。表向きの政府トップはイビチャ・ダチッチ首相でしたが、多くの政治アナリストは、連立政権と議会における最大政党の党首として、ヴチッチが政府内で最大の影響力を持っていると見ていました。

大統領時代（2017年～）

2017年4月、ヴチッチは大統領選挙に出馬し、第1回投票で過半数の票を獲得し当選しました。外交面では、当初は親ロシア路線を採っていましたが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、ロシアとの距離を置き始めました。2023年11月には、国民議会を解散し、12月に議会選挙が行われましたが、与党のセルビア進歩党が過半数近くの票を集める一方で、野党連合は苦戦しました。選挙結果をめぐり、デモ隊がベオグラード市議会を攻撃する事件も発生しました。

私生活

身長200cmのヴチッチは、世界で最も身長の高い政府首脳の一人です。1997年にクセニヤ・ヤンコヴィッチと結婚し、二人の子供をもうけましたが、2011年に離婚。2013年にはタマラ・ジュカノヴィッチと再婚し、2017年に息子を授かっています。

野党時代には、テレビ番組に頻繁に出演しており、2006年にはトーク番組「ザ・ピラミッド」のセルビア版で優勝しています。また、人道的なダンスコンテストや深夜のトーク番組にも出演した最初の政治家であり、音楽コンテストのゲスト審査員を務めた経験もあります。

2019年11月には、心血管系の問題で入院しましたが、3日後には退院しました。一部関係者は、彼の健康問題がジャーナリストからの圧力によるものだと主張しましたが、ヴチッチ自身はこれを否定し、慢性的なものだと述べています。2020年4月には、息子が新型コロナウイルスに感染し入院したことも明らかになりました。

2020年7月、ヴチッチは政治家引退後、子供のバスケットボール指導者になることを目標に、ベオグラードのスポーツ健康大学に入学しましたが、入学条件の変更をめぐり議論を呼んでいます。

ヴチッチは、セルビアの政治において重要な役割を果たしており、彼の政治姿勢は国内外で様々な評価を受けています。

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