アレクサンドリア暴動 (38年)

アレクサンドリア暴動 (38年): ユダヤ人とギリシア人の衝突

アレクサンドリア暴動、またはアレクサンドリアのポグロムは、38年にローマ帝国領アレクサンドリアで発生した、ユダヤ人とギリシア人住民間の衝突事件です。この事件は、単なる民族間の衝突にとどまらず、当時のローマ帝国の政治状況や、ユダヤ教に対する弾圧など、複雑な背景が絡み合っていました。

背景: カリグラ帝の疑念とフラックスの失脚

皇帝カリグラは、アエギュプトゥス（エジプト）長官であったアウルス・アウィリウス・フラックスに対し、強い不信感を抱いていました。フラックスは先帝ティベリウスには忠実に従っていたものの、カリグラの母である大アグリッピナに対する陰謀に加担していた疑いがあり、さらにエジプトの分離主義勢力とも繋がりがあったとされています。

暴動の勃発: ヘロデ・アグリッパの派遣と皇帝の像

38年、カリグラはヘロデ・アグリッパをアレクサンドリアに派遣し、フラックスの様子を密かに調査させました。アレクサンドリアのギリシア人たちは、ヘロデ・アグリッパを「ユダヤ人の王」と見なし、嘲弄しました。フラックスは、ギリシア人とカリグラの歓心を買おうとして、ユダヤ人住民のシナゴーグに皇帝の像を設置しました。この行為は、ユダヤ人の強い反発を招き、アレクサンドリア市内で大規模な暴動が発生する事態となりました。事態を重く見たカリグラは、フラックスを罷免し、最終的には処刑しました。

その後: ユダヤ教への弾圧とフィロンの活動

アレクサンドリアでは、40年にもユダヤ人とギリシア人が再び衝突し、暴動が起きました。この時の発端は、ユダヤ人が皇帝を崇拝していないという非難でした。ヤムニアの街で紛争が勃発し、ユダヤ人たちは、粘土の祭壇が設置されたことに激怒し、これを破壊しました。これに対し、カリグラはユダヤ教へのさらなる弾圧として、ユダヤ教の聖地であるエルサレム神殿に自身の像を建立するよう命じました。この命令は、一神教であるユダヤ教に対する明らかな挑戦であり、カリグラはユダヤ人を「自身に抵抗する人々」と見なしていたと伝えられています。

暴動に関する一次資料を残した人物として、ユダヤ人のフィロンがいます。彼は暴動を目撃した後、ユダヤ人の使節団を率いてカリグラのもとへ赴き、アレクサンドリアにおけるユダヤ人居住区の再建を願い出ました。フィロンは、著書『イン・フラックム（反フラックス）』で暴動の詳細を記述し、『レガティオ・アド・ガイウム（ガイウスへの使節）』の冒頭でも暴動について触れています。

事件の名称と後世の研究

サンドラ・ガンベッティは、38年のアレクサンドリアでの事件を「史上初のポグロム」と見なす研究者もいるとしつつも、自身の著作では、この事件と後の近代におけるユダヤ人の経験を結びつけることを避けています。彼女によれば、「2つの歴史的枠組みを比較検討する必要がある」ためです。一方で、アーダルベルト・ポラツェクは著書『Holocaust, Two Millennia Ago』の中でこの事件を「ホロコースト」と呼んでいますが、これに対し、Miriam Pucci Ben Zeevは「ミスリーディングで、方法論的な根拠がない」と批判しています。

アレクサンドリア暴動は、単なる地域的な事件ではなく、ローマ帝国内におけるユダヤ人と他の民族との関係、そしてローマ皇帝による宗教政策を考える上で重要な事件です。後世の研究者によって様々な解釈がなされており、現在も議論が続いています。

関連項目

アレクサンドリア暴動 (66年)
ユダヤ・ローマ戦争
エジプトにおけるユダヤ人の歴史
ローマ帝国におけるユダヤ人の歴史
* 近東の紛争一覧

もう一度検索