アレクサンドル・プロトポポフ

アレクサンドル・プロトポポフ：帝政ロシア崩壊の影に潜む男

アレクサンドル・ドミトリエヴィッチ・プロトポポフ(1866年-1918年)は、ロシア帝国末期の政治舞台で、特異な存在感を放った人物です。最後の内務大臣として、グリゴリー・ラスプーチンや皇后アレクサンドラ・フョードロヴナと共に、帝政末期の政治を陰から操ったとされています。彼の行動は、ロシア革命、ひいては帝政崩壊へとつながる重要な一端を担ったと評価されています。

裕福な地主から政治家へ

プロトポポフは、シンビルスク(アレクサンドル・ケレンスキーやウラジーミル・レーニンらの出身地でもある)の裕福な地主の家に生まれました。士官学校卒業後、陸軍に勤務した後、事業家として成功を収め、機械工場や製材所などを所有する実業家として財を成します。サンクトペテルブルクを拠点に財界との繋がりを強め、1907年にはドゥーマ（帝国議会）議員に選出され、リベラル派の「10月17日同盟」に所属しました。

ドゥーマ議員から内務大臣へ

第一次世界大戦下、プロトポポフは皇后アレクサンドラからの強い推薦を受け、内務大臣に抜擢されました。しかし、彼は官僚経験や警察経験に乏しく、精神的な不安定さも指摘されていました。彼の内相としての在任期間は、ロシア帝国の衰退と混乱を加速させたとする見方が一般的です。

ラスプーチンとの密接な関係

プロトポポフは、1912年頃にラスプーチンと知り合い、以後緊密な関係を築きました。彼は梅毒に侵され、精神的に不安定な状態に陥っていたとされ、ラスプーチンや他の霊能者からの治療や助言を求めていたとされています。ラスプーチン暗殺の前日にも、プロトポポフはラスプーチンに警告を与えていたという記録が残っており、その関係の深さを示しています。

政策の失敗と批判

内相として、プロトポポフは食料供給問題や治安維持に失敗し、国民からの激しい批判を浴びました。彼の政策は、反動的で、自由主義的な理想を裏切ったと見なされ、「狂人」というあだ名でさえ付けられました。また、ドイツの財界との繋がりも指摘され、ニューヨーク・タイムズ紙で批判報道されました。ドゥーマからも激しい反発を受け、彼の解任を求める声が絶えませんでした。

二月革命とその後

1917年2月革命勃発時、プロトポポフは治安部隊によるデモ隊への武力鎮圧を命令しましたが、治安部隊の多くがデモ隊側に寝返る事態となり、革命の成功を助けてしまった側面も持ちます。革命後、彼は逮捕され、ペトロパヴロフスク要塞に収監されました。その後、十月革命後、ボリシェヴィキ政権によってモスクワで処刑されました。彼の精神状態については、当時から様々な議論があり、精神疾患を患っていたとする説が有力です。

プロトポポフの評価

プロトポポフは、ロシア帝国末期の混乱と崩壊に深く関与した人物として歴史に名を残しました。彼の能力不足、精神不安定さ、ラスプーチンとの関係、そして間違った政策判断が、帝政ロシアの終焉を早めた一因であることは否めません。しかし、単なる悪役として片付けるには、彼の複雑な人物像、そして当時のロシアの政治状況を深く理解する必要があります。彼の生涯は、ロシア革命とその背景を理解するための重要な一端を担うものです。

脚注

* V.I. Gurko. Features And Figures Of The Past. Government And Opinion In The Reign Of Nicholas II.

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