アレクサンドル・ペチェルスキー

アレクサンドル・アローノヴィチ・ペチェルスキー

アレクサンドル・アローノヴィチ・ペチェルスキー（1909年2月22日 - 1990年1月19日）は、ソビエト連邦の赤軍に所属し、ナチス・ドイツの捕虜として過ごした後、ソビボル強制収容所での大脱走を指導したことで知られる歴史的人物です。通称サーシャと呼ばれる彼は、ユダヤ人の弁護士の息子としてウクライナのクレメンチュークで生まれ、戦前はロストフ・ナ・ドヌで妻と娘とともに平穏な生活を送っていました。彼は簿記の仕事に従事していましたが、独ソ戦の勃発により赤軍に徴兵されました。

軍歴と捕虜生活

ペチェルスキーは赤軍内で中尉として需品係を務めましたが、後にドイツ軍に捕虜となり、捕虜収容所へ送られました。そこでは4回も脱走を試みましたが、すべて失敗に終わりました。捕虜として送られたボリソフの懲罰収容所で、彼はユダヤ人であることを知られ、ナチスの息がかかった強制労働収容所に移されました。彼以外にも、ユダヤ人のソ連兵捕虜が集められており、ペチェルスキーはその中でリーダー的存在となります。

1943年9月27日、彼はソビボル強制収容所に転送され、そこでゾンダーコマンドとして働くことになりました。ペチェルスキーは同じく囚人であるレオン・フェルトヘンドラーと共に、囚人たちの脱走計画を練り始めます。脱走計画は、所長らが留守の隙を狙い、SS看守たちを排除してから正門から脱出するという大胆なものでした。

ソビボル脱走

1943年10月14日、計画は実行に移されました。ペチェルスキーたちはSS看守を一人ずつおびき寄せ、ナイフで次々と攻撃し、合計11人を殺害しました。しかし、その行動はすぐに発覚します。ペチェルスキーは急遽、残る囚人たちに自由を求める演説を行い、600人もの囚人が大脱走を試みました。この時、多くの囚人が銃撃または地雷で命を落としましたが、結果として約300人が収容所の外へ脱出することに成功しました。しかし、戦後を迎えることができたのは50人程度でした。

脱走後、ペチェルスキーはソ連のパルチザン部隊と合流し、ナチスへのゲリラ活動に参加しました。この活動中、彼は足を負傷するも、戦後にはソ連に帰還しました。しかし、彼はナチスの捕虜であったことで「外患罪」としてソビエトの秘密警察NKVDに捕らえられ、再び強制収容所に送られました。彼の行動が西側に知られるようになると、抗議の声が高まり、NKVDはやむなく彼を釈放しました。

最晩年と影響

アレクサンドル・ペチェルスキーは1990年にロストフ・ナ・ドヌで死去しました。彼のテロに対する抵抗の物語は、映画や書籍を通じて広まり、特に1987年の映画「脱走戦線 ソビボーからの脱出」や、2018年のロシア映画『ヒトラーと戦った22日間』などで描かれています。ペチェルスキーの勇気と決断力は、多くの人々に希望を与え、歴史にその名を刻みました。

もう一度検索