アレス (ロケット)

アレス

NASAの宇宙開発計画「コンステレーション計画」の下で構想・開発が進められた、一連の大型ロケットシリーズです。特に、運用を終えることになったスペースシャトルで使用されていた技術や構成要素を応用することで、効率的な開発を目指した「シャトル派生型ロケット」として位置づけられていました。しかし、2010年1月にコンステレーション計画そのものが廃止されたことに伴い、アレス計画も開発途中で打ち切られました。アレスシリーズに代わる新たな大型ロケットとしては、その後にスペース・ローンチ・システム（SLS）が開発されています。

計画の背景

アレスロケットの開発構想は、2000年代初頭、当時のジョージ・W・ブッシュ政権が打ち出した新たな宇宙開発戦略に端を発します。このロードマップでは、スペースシャトルの後継となるカプセル型宇宙船「CEV」（後のオリオン宇宙船）の開発が必須とされていました。オリオン宇宙船は国際宇宙ステーション（ISS）への人員・物資輸送に加え、月面再訪や火星探査といった将来ミッションに対応できる汎用機体を目指しており、これらの目標達成には超大型ロケットが不可欠でした。

NASAは、限られた予算の中で既存技術活用によるコスト削減のため、スペースシャトルの固体ロケットブースター（SRB）、外部燃料タンク、主エンジン（SSME）といった構成要素を流用・改良する方針を立てました。当初SSMEを上段にも使う計画でしたが、後にRS-68やアポロ計画のJ-2改良型J-2Xなど、よりコスト効率に優れた汎用エンジンを採用することに変更されました。打ち上げには、ケネディ宇宙センターの第39Aおよび第39B発射台が改修される予定でした。

アレスシリーズの種類

コンステレーション計画では、担う役割に応じて複数のアレスロケットが計画されていました。

アレスI

主にオリオン宇宙船を地球低軌道へ打ち上げるための「CLV（Crew Launch Vehicle）」です。

構成: 第1段はスペースシャトルのものよりセグメント数を増やした5セグメントの固体ロケットブースター単体。第2段には、アポロ計画のJ-2エンジンを再設計した液体燃料エンジンJ-2X（液体酸素/液体水素を推進剤とし、軌道上での再着火が可能）が採用されました。
開発状況: 2008年7月31日、NASAはアレスIの第1段階試験成功を発表。実際に、試験機「アレスI-X」が2009年10月28日にケネディ宇宙センターの39B発射台から打ち上げられ、飛行試験が実施されました。
主要諸元（計画値または試験機）:
全長: 約94 m
直径: 約5.5 m
ステージ数: 2
ペイロード能力: 地球低軌道（LEO）へ約25 t

アレスIV

アレスIと次に述べるアレスVの中間的な能力を持つロケットとして検討されました。しかし、最終的には計画から除外され、実現には至りませんでした。有人宇宙船打ち上げ用のアレスIと、大型貨物打ち上げ用のアレスVの中間役割を想定していました。

主要諸元（計画値）:
全長: 約113 m
ステージ数: 3
ペイロード能力: 高度240 kmから月への直接輸送任務で約41.1 t

アレスV

「CaLV（Cargo Launch Vehicle）」と呼ばれた中心的な超大型ロケットで、月着陸船など、アレスIでは運べないような大規模な物資の打ち上げを目的としていました。

構成: 第1段には、現行最強クラスの汎用エンジンRS-68複数基（液体酸素/液体水素）を採用。SSMEより効率が若干低いため、燃料タンクはシャトル用外部燃料タンクより大型化される計画でした。この第1段の側面に、アレスIと同じ5セグメント構成の固体ロケットブースターが2本取り付けられます。第2段には、アレスIと同様にJ-2Xエンジンが1基搭載される予定でした。この第2段に月着陸船などが搭載され、地球軌道上でアレスIで打ち上げられたオリオン宇宙船と結合後、月への軌道に乗せる方式が採用されていました。
能力: 地球低軌道へ約130トン、月遷移軌道へ約65トンという、アポロ計画のサターンVや旧ソ連のエネルギアといった歴史的な超大型ロケットに匹敵するか、それを上回る高い打ち上げ能力を誇る計画でした。また、強力なキックモーターとしてセントール・ステージを搭載することで、大型の惑星探査機などを直接太陽系外へ送り出すことも可能とされました。
主要諸元（計画値）:
全長: 約109.2 m
直径: 約8.4 m
ステージ数: 2
ペイロード能力: 地球低軌道（LEO）へ約130 t、月遷移軌道へ約65 t

アレスロケットシリーズは次世代有人宇宙開発の柱として期待されましたが、コンステレーション計画全体の廃止により開発は完了せず打ち切られました。その構想や設計の思想の一部は、後継ロケットであるスペース・ローンチ・システムに引き継がれています。

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