アレスI-X

アレスI-X：アレスIロケット試験機

アレスI-Xは、NASAがスペースシャトル退役後の有人宇宙飛行を目指したコンステレーション計画において、オリオン宇宙船を打ち上げるために開発されたアレスIロケットの最初の試験機です。2009年10月28日に打ち上げられ、試験飛行を成功させました。計画には4億4500万ドルの費用が投じられました。

試験の目的

アレスI-Xの主な目的は、以下の点を検証することでした。

アレスIで使用される制御システムの実証
第1段と上段の分離の実証
第1段の組み立てと修理の実証
第1段の大気圏再突入時の挙動とパラシュート展開の実証
* 飛行中の回転トルクの測定

また、二次的な目的として、ブースターの減速効果の定量化、上昇時の環境と負荷の測定、機体の向きの決定手順の実証、打ち上げ場滞在時の負荷の測定、打ち上げ施設への適合性評価、第1段への電力供給評価などが設定されました。

機体の概要

アレスI-Xは、アレスIの実機と外形、質量、大きさを合わせていますが、動力装置が1つしかない点が大きく異なります。機体は、固体燃料補助ロケット、模擬質量、模擬上段ステージ、模擬オリオンモジュール、模擬脱出システムなどで構成されました。実際の上段ステージの製造が間に合わなかったため、模擬上段ステージを使用し、実際の軌道に近い飛行を可能にしました。第1段は回収され、フライトレコーダーなどが回収されました。

第1段

第1段の固体ロケットモーターなどは、スペースシャトルから直接引き継がれました。モーターはATKランチ・サービスが製造し、新しい前部構造はメジャー・ツール＆マニュファクチュアが、第1段の部品はマーシャル宇宙飛行センターが製造しました。

模擬上段ステージ

模擬上段ステージは、グレン研究センターで製造されました。輸送上の制限から、複数の部品として製造され、組み立てられました。形状、質量、重心は、アレスIの中央ステージからサービスモジュールの頂上までを模擬したものです。内部には温度計、振動計、熱センサーなどの各種センサーが搭載され、飛行を制御する慣性航法装置も搭載されました。

回転制御システム

アレスI-Xには、機体の回転を制御するためのシステムが搭載されました。これは、ピースキーパーミサイルで使用されていたエンジンを搭載した2つのモジュールで構成され、打ち上げ後の機体を90度回転させ、上昇中の回転を維持する役割を果たしました。

居住モジュール、疑似緊急脱出装置

機体上部には、オリオン宇宙船の居住モジュールと緊急脱出装置の模擬構造が搭載されました。これらの構造にも多数のセンサーが取り付けられ、熱、空気力学、音響、振動などのデータが収集されました。

航空電子機器

アレスI-Xの航空電子機器には、アトラスVロケットのものが転用されました。これには、慣性航法装置やジャイロなどが含まれます。第1段は、既存のスペースシャトルシステムのハードウェアをベースにした機器で制御されました。

飛行試験

当初、2009年10月27日に打ち上げが予定されていましたが、天候条件などにより延期されました。翌28日、ケネディ宇宙センター第39発射施設Bから打ち上げられ、短時間の試験飛行を成功裏に終えました。第1段は大西洋にパラシュートで落下し、回収されました。

スラスタの振動

打ち上げ前から、スラスタの振動が宇宙飛行士の安全を脅かす可能性が指摘されていました。NASAは、アレスIの固体ロケットブースターが上昇中に大きな振動を起こす可能性があることを認めましたが、データの分析により、振動はスペースシャトルの飛行の通常の範囲内であることが示されました。

パッドの損傷

打ち上げ後、発射台に旧式の酸化剤である四酸化二窒素が漏れ出しているのが確認されました。また、打ち上げパッドは、ロケットからの排気により、通常よりも大きな損傷を受けました。

パラシュートの故障

第1段のパラシュートのうち1つが正常に開かなかったことが報告されました。NASAによると、部分的なパラシュートの展開の失敗は、スペースシャトルの固体ロケットブースターでは珍しくありませんでした。

第1ステージの損傷

第1段は、着水時に下部が歪んでいることが確認されました。また、作動装置のケースやブラケットに亀裂が見られました。パラシュートの故障により、着水速度が速かったことが原因と考えられています。

模擬上段ステージの水平旋回

模擬上段ステージは、切り離し直後に反時計回りに水平旋回し始めました。接触はなかったものの、この旋回は飛行前のシミュレーションで予測されていた挙動の1つでした。

アレスI-Xの飛行試験は、アレスIロケットの開発における重要なステップとなりました。試験から得られたデータは、その後のロケット設計に活かされました。

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