アロウ・スルー・ミー

アロウ・スルー・ミー (Arrow Through Me)

「アロウ・スルー・ミー」は、1979年にポール・マッカートニー率いるバンド、ウイングスによって発表された楽曲です。彼らのアルバム『バック・トゥ・ジ・エッグ』に収められており、特にアメリカと日本ではこのアルバムからのシングルカットとしてもリリースされました。シングルとしては、米国のビルボード・ヒットチャートで最高位29位をマークしています。日本では、1980年に予定されていたウイングスの来日公演を記念する目的で、「来日記念盤」という特別な形態で市場に出されました。

楽曲の特徴と評価

この楽曲は、そのファンキーなサウンドと印象的なブラス・セクションが特徴です。ポール・マッカートニー自身がリード・ボーカルを務め、エレクトリック・ピアノやシンセサイザーも担当しています。バックを固めるのは、ドラムスとフレクサトーンを演奏したスティーブ・ホリーに加え、ハウイー・ケイシー、サディアス・リチャード、スティーブ・ハワード、トニー・ドーシーといったホーン奏者たちです。彼らの力強いホーンアレンジが、楽曲に独特のリズムとグルーヴを与えています。

楽曲に対する評価は様々です。ウイングスの最後のギタリストを務めたローレンス・ジューバーは、2014年のインタビューでこの曲を「素晴らしい」と称賛し、ポール・マッカートニーが手掛けた楽曲の中でも特に「過小評価されている」一曲だと述べています。彼によれば、この曲が広く知られなかったのは、当時のロック・ラジオがヘヴィーな楽曲ばかりをオンエアした結果、忘れ去られてしまったからだといいます。

一方、ポール・マッカートニー自身は2016年のインタビューで、レコーディング後に文字通り一度も聴き返していない曲がいくつかあることに触れ、「アロウ・スルー・ミー」をその一つとして挙げています。彼はこの曲を「一種のファンキーな小品」と表現し、「面白いハーモニー、面白いブラス・リフ」があると言及していますが、「録音した後、二度と聴いていないような曲だね」とも語っており、本人にとってはあまり深く顧みられない楽曲の一つであったようです。

シングル収録曲と関連メディア

「アロウ・スルー・ミー」がシングルとしてリリースされた際のカップリング曲は、「オールド・サイアム・サー (Old Siam, Sir)」でした。この曲もまた、『バック・トゥ・ジ・エッグ』に収録されています。

本楽曲にはミュージックビデオも制作されており、ウイングスのメンバー4人がキーボードを演奏する様子が収められています。

また、「アロウ・スルー・ミー」はいくつかのメディアで使用されています。1980年に公開された映画『名探偵ベンジー』のサウンドトラックとして用いられたほか、2020年にはHuluで配信されたテレビドラマ『ハイ・フィデリティ』のシーズン1、エピソード2でもフィーチャーされました。

さらに、アメリカのミュージシャンであるエリカ・バドゥは、2010年に発表した楽曲『Gone Baby, Don't Be Long』の中で、「アロウ・スルー・ミー」の一部をサンプリングして使用しています。これは、時代を超えてこの楽曲が他のアーティストに影響を与えている例と言えるでしょう。

「アロウ・スルー・ミー」は、ウイングスの後期の作品として、当時の音楽シーンにおける彼らの多様なサウンドプロダクションを示す一例であり、関係者の評価やその後のメディアでの使用、サンプリングといった形で、現在も音楽史の中にその存在を留めています。

もう一度検索