アロンソ・カーノ

アロンソ・カーノ（Alonso Cano Almansa, 1601年2月19日 - 1667年9月3日）は、スペインのバロック美術において重要な役割を果たした画家、彫刻家、そして建築家です。彼の作品は、絵画、彫刻、建築の各分野にわたり、スペイン美術史において独自の地位を築いています。

生い立ちと初期のキャリア

カーノは、1601年にスペイン南部の都市グラナダで生まれました。父ミゲル・カーノは彫刻家兼建築家であり、アロンソは幼い頃から芸術に触れる機会に恵まれました。1614年頃、画家フアン・デル・カスティーリョの勧めで、セビリアに移り、当時最も影響力のある画家の一人であったフランシスコ・パチェーコの工房で修行を始めました。パチェーコの工房では、ディエゴ・ベラスケスと出会い、生涯にわたる友情を育みました。また、彫刻家フアン・マルティネス・モンタニェースからも彫刻の指導を受けたとされています。

修行時代には、父と共に祭壇画の制作にも携わり、その才能を早くから開花させました。1627年には最初の妻が亡くなり、その後1631年にフアン・デ・ウセーダの姪と再婚しています。

マドリードでの活躍

1638年、カーノはフェリペ4世の寵臣であるガスパール・デ・グスマンに招かれ、マドリードに移りました。宮廷画家として活躍する傍ら、皇太子バルタサール・カルロス・デ・アウストリアの絵の教師も務めました。マドリードの王宮には、16世紀のベネチア派の絵画やベラスケスの作品が多数所蔵されており、カーノはこれらの作品から大きな影響を受け、鮮やかな色彩を用いた人物画を描くようになりました。

悲劇と転機

1644年、カーノの妻が殺害されるという悲劇に見舞われます。カーノ自身も殺人罪で告発され、拷問も受けましたが、最終的には有罪とはなりませんでした。この事件の後、カーノはバレンシアに移り、修道院で約1年間過ごします。

1647年にマドリードに戻り、修道会の修道士となりました。その後、1651年に故郷グラナダに戻り、聖職者となるための修行を開始し、1652年には律修司祭となりました。

晩年と作品

司祭となったカーノは、グラナダの多くの修道院や教会で装飾画を手がけました。1660年にはマドリードやサラマンカに滞在した後、司祭に叙階され、再びグラナダに戻り、亡くなるまで聖職者として活動しました。

カーノの作品は、バロック美術特有のドラマチックな表現と、繊細な描写が特徴です。絵画作品では、宗教的なテーマを扱った作品が多く、鮮やかな色彩とダイナミックな構図が印象的です。彫刻作品では、聖人像や宗教的な装飾を制作し、その卓越した技術を示しました。また、建築家としても才能を発揮し、教会や修道院の設計に携わりました。

カーノは、その多才ぶりから「スペインのミケランジェロ」とも呼ばれ、スペイン美術史において重要な人物の一人として評価されています。

主な作品

カーノの主な作品として、以下のようなものが挙げられます。

『聖母マリアの受胎告知』
『聖アグスティヌス』
『聖パウロの改宗』
『無原罪の御宿り』
* グラナダ大聖堂のファサード

これらの作品は、カーノの卓越した技術と豊かな芸術性を伝えるとともに、スペインバロック美術の粋を今に伝えています。

まとめ

アロンソ・カーノは、画家、彫刻家、建築家として、スペイン美術史に偉大な足跡を残しました。その作品は、バロック美術の多様性と深みを体現しており、後世の芸術家に大きな影響を与え続けています。

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