アワガタケスミレ

アワガタケスミレ（粟ヶ岳菫）

アワガタケスミレ（学名：Viola awagatakensis）は、日本の新潟県を中心に分布するスミレ科の多年草です。この種は1997年に新たに記載された植物で、日本独自の存在感を持っています。

特徴

アワガタケスミレは有茎の植物ですが、地上の茎はほとんど目立たず、立ったとしてもその高さは約3-6cmにとどまります。全体の植物の高さは7-14cm程度であり、比較的小型の草本です。このスミレの特筆すべき特徴は、唇弁の距（距棍）が細長く、斜め上に伸びることです。この点でナガハシスミレ（V. rostrate subsp. japonica）に似ていますが、アワガタケスミレの葉は小さく、質感が厚くて光沢が強いのが特徴です。葉は三角状卵形で、基部が心形ではなく切形であるため、種の判別が可能です。また、テリハタチツボスミレ（V. faurieana）とも類似点がありますが、こちらも唇弁の距の形状で区別されます。本種の距の長さは8-12mmに達します。

花期は4月下旬から5月中旬まで続き、この時期に1-1.3cmほどの小さな花が咲きます。花弁は紅紫色から淡紫色に変化し、側弁の基部には毛が見られません。花柄は根生または腋生で、わずかに赤みを帯びています。さらに、この植物の染色体数は2n=20という特性も持っています。

分布と生育環境

アワガタケスミレは日本固有の種であり、本州の新潟県、福島県、山形県の内陸部に生息しています。特に日当たりの良い傾斜地で岩の割れ目や崩壊した乾燥した場所に限られた環境で育ちます。この種のタイプ標本が採集された場所は、新潟県南蒲原郡下田村（現在は三条市）です。

名前の由来

和名の「アワガタケスミレ」は、「粟ヶ岳菫」という意味で、基準産地である新潟県加茂市と三条市にまたがる粟ヶ岳に由来しています。種小名の「awagatakensis」も同様に、その地域名を反映しています。

新種記載の歴史

アワガタケスミレは、初めてナガハシスミレの変種V. rostrate var. crassifoliaとして記載されました。変種名「crassifolia」は「厚葉の」という意味を持ち、著者の橋本保が1967年に提出したものです。1983年以降、新潟県の植物研究者である伊藤至と上石貞夫がこのスミレを確認し、採集を行いました。1997年に植物学者の山崎敬と共に、アワガタケスミレはナガハシスミレに似るものの、独立した種として認識されることが発表されました。

種の保全状況

環境省のレッドリストによると、アワガタケスミレの保全状況は準絶滅危惧（NT）に評価されています。これは種の生息環境が非常に限定的であり、今後の保護が必要であることを示しています。

参考文献

• - 矢原徹一他監修『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプタンツ（増補改訂新版）』、2015年、山と溪谷社
• - 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 3』、2016年、平凡社
• - 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
• - 山崎敬「アワガタケスミレについて」『植物研究雑誌 (The Journal of Japanese Botany)』第72巻第1号、津村研究所、1997年、58-61頁。

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