アワド太守

アワド太守とは

アワド太守（ナワーブ）は、ムガル帝国の北インド、アワド地方（現在のウッタル・プラデーシュ州東部）を統治した地方長官です。アワドは、ガンジス川中流域に位置する肥沃な地域で、古くから多くの王朝が支配しました。

18世紀初頭、ムガル帝国の衰退とともに、アワドは事実上独立し、アワド太守が統治する地方政権となりました。1801年以降は、イギリス東インド会社の保護下に入り、アワド藩王国となります。その首都は、ファイザーバードからラクナウへと遷都されました。

アワド太守の歴史

ムガル帝国からの独立

1707年、ムガル皇帝アウラングゼーブの死後、帝国は各地で反乱が相次ぎました。アワドの太守であったサアーダト・アリー・ハーンは、イラン系の貴族であり、アウラングゼーブの部下でした。彼は、ムガル帝国に見切りをつけ、1724年に事実上アワドで独立しました。ただし、正式に独立を宣言したのは1819年であり、それまではムガル帝国の主権を認めていました。

サアーダト・アリー・ハーンは、皇帝から「ブルハーヌル・ムルク」の称号を与えられ、重用されていましたが、ムガル帝国の衰退を見て独立を決意します。

サフダル・ジャングの治世

サアーダト・アリー・ハーンの死後、甥のサフダル・ジャングが太守位を継承しました。彼の治世は、アワドの繁栄期であり、「長い春」とも称されました。サフダル・ジャングは、公正な司法制度を整え、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒を平等に扱う政治を行いました。

また、サフダル・ジャングは、ムガル帝国の宰相にも任命され、アワドの世襲支配を確立しました。しかし、後にトルコ系貴族との争いに敗れ、宰相職を辞任しました。

第三次パーニーパットの戦いとブクサールの戦い

1754年、サフダル・ジャングが亡くなり、息子のシュジャー・ウッダウラが太守位を継承しました。1761年の第三次パーニーパットの戦いでは、アフガン勢力に味方しました。

その後、シュジャー・ウッダウラは、イギリスに敗れたムガル皇帝シャー・アーラム2世を保護し、皇帝の宰相に任命されました。また、ベンガルを追われたミール・カーシムも保護し、三者同盟を結成しました。

1764年、三者連合軍はイギリス東インド会社とブクサールの戦いで戦いましたが、大敗しました。この敗戦によって、アワドはイギリスの支配下に置かれることとなります。

イギリスの従属化とラクナウ遷都

ブクサールの戦い後、アワドは徐々にイギリスに従属するようになり、1773年にはヴァーラーナシー条約（ベナレス条約）によって、イギリス軍が駐留することになりました。その費用はアワドが負担しました。

1775年、シュジャー・ウッダウラの死後、息子のアーサフ・ウッダウラが太守位を継承し、1781年に首都をファイザーバードからラクナウへ遷都しました。ラクナウは、アーサフ・ウッダウラの時代に独自のイスラム文化が栄え、ムガル帝国の首都デリーを凌ぐ繁栄を見せました。

アワド藩王国化

1798年、ワズィール・アリー・ハーンがイギリスによって廃位され、サアーダト・アリー・ハーン2世が太守位に就きました。1801年、サアーダト・アリー・ハーン2世はイギリスと軍事保護条約を結び、アワドは藩王国となりました。この条約によって、アワドはイギリスに領土を割譲し、軍事力を削減されました。

混乱と滅亡

1818年、アワド太守ガーズィー・ウッディーン・ハイダル・シャーはアワド王を宣言し、翌年にはムガル帝国から正式に独立しました。しかし、藩王国としてイギリスの支配下にあることに変わりはなく、財政は困窮していました。

19世紀になると、藩王は贅沢な生活を送り、政治は腐敗しました。1856年、イギリスはアワド藩王国を併合し、藩王ワージド・アリー・シャーは退位させられました。こうして、アワドのナワーブ王朝は滅亡しました。

イギリス併合後

イギリスによる併合後、アワドはイギリス領となり、行政・司法・徴税をイギリスが行うことになりました。

多くの貴族、役人、軍人が職を失い、失業問題が深刻化しました。また、イギリスは高額な地租を課し、アワドの住民は苦しみました。

アワド出身のシパーヒー（インド人傭兵）は、イギリスによるアワド併合に不満を抱き、1857年のインド大反乱に参加し、ラクナウは大反乱における最大の激戦地となりました。

アワドの文化

アワドの太守たちは、様々な文化を保護したため、独自のイスラム文化が栄えました。特にラクナウは、ムガル絵画やヨーロッパ風の絵画が盛んに制作され、芸術の都として繁栄しました。

アワドの文化は、ムガル帝国の伝統を受け継ぎながらも、独自の発展を遂げ、インドの文化史において重要な役割を果たしました。

歴代君主

1. サアーダト・アリー・ハーン (1722年 - 1739年)
2. サフダル・ジャング (1739年 - 1754年)
3. シュジャー・ウッダウラ (1754年 - 1775年)
4. アーサフ・ウッダウラ (1775年 - 1797年)
5. ワズィール・アリー・ハーン (1797年 - 1798年)
6. サアーダト・アリー・ハーン2世 (1798年 - 1814年)
7. ガーズィー・ウッディーン・ハイダル・シャー (1814年 - 1827年)
8. ナーシルッディーン・ハイダル・シャー (1827年 - 1837年)
9. ムハンマド・アリー・シャー (1837年 - 1842年)
10. アムジャド・アリー・シャー (1842年 - 1847年)
11. ワージド・アリー・シャー (1847年 - 1856年)

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