アウラングゼーブ

アウラングゼーブ：ムガル帝国の興亡を分けた皇帝

アウラングゼーブ(1618年-1707年)は、インド亜大陸を支配したムガル帝国の第6代皇帝です。49年にわたる彼の治世は、帝国の繁栄と衰退、そしてインドの歴史に大きな転換点をもたらしました。

幼少期と皇位継承戦争

ムガル帝国の皇子として生まれたアウラングゼーブは、幼少期からイスラーム教に深く傾倒し、厳格なスンナ派の信者として知られていました。一方、父シャー・ジャハーンは、アクバル以来の宗教寛容政策を継承していましたが、アウラングゼーブは兄ダーラー・シコーらとは、宗教観や政治的な見解において対立を深めました。

シャー・ジャハーンの重病をきっかけに、アウラングゼーブは兄たちと皇位継承戦争を繰り広げます。優れた軍事戦略と、ミール・ジュムラーなどの有力な武将の協力を得て、アウラングゼーブは勝利を収め、1658年に皇帝の座に就きました。しかし、その過程で彼は兄弟たちを殺害し、父を幽閉するという冷酷な手段を用いました。

宗教政策と異民族の抵抗

アウラングゼーブは、[ムガル帝国]]を[[シャリーア]に基づいた国家にしようと試みました。そのため、ヒンドゥー教徒などに対する厳しい宗教政策を展開し、ジズヤ(人頭税)を復活させたこともありました。

この政策は、ラージプートなどの異民族の反発を招き、特にデカン地方では、ヒンドゥーの復興を掲げるマラーターの指導者シヴァージーが強い抵抗勢力となりました。シヴァージー率いるマラーターは、ゲリラ戦術を用いてムガル軍を苦しめ、アウラングゼーブは長年にわたってデカンでの戦いを強いられることとなります。

デカン遠征と帝国の衰退

アウラングゼーブは、デカン地方のビジャープル王国やゴールコンダ王国を征服し、マラーター王国を南に押し返すなど、帝国の領土拡大に成功しました。しかし、マラーターの抵抗は依然として強く、重税に苦しむ各地で反乱が頻発し、帝国の財政は悪化の一途をたどりました。

晩年のアウラングゼーブは、デカンでの長期遠征に苦慮し、帝国は徐々に衰退していきます。彼は自身の宗教政策が招いた結果を痛感し、後悔の念に駆られたと伝えられています。

アウラングゼーブの死とムガル帝国の崩壊

1707年、アウラングゼーブは崩御しました。彼の死によって、ムガル帝国は急速に衰退し、各地で反乱や独立運動が勃発しました。マラーター勢力の台頭、イギリスやフランスなどのヨーロッパ列強の進出なども相まって、かつて広大な領土を誇ったムガル帝国は、最終的には衰亡の道を歩むこととなります。

アウラングゼーブの人物像と評価

アウラングゼーブは、イスラーム教への深い信仰心と、それに基づいた厳格な統治を行った皇帝として知られています。しかし、その宗教政策は、帝国の多様な民族・宗教間の融和を阻害し、反発を招いた側面も否定できません。

彼の治世は、ムガル帝国の全盛期と衰退期の境目に位置しており、その功罪は現在でも歴史家の間で議論されています。イスラーム復古主義者からは英雄として、現代的な多元主義者からは帝国の多様性を損ねた人物として評価が分かれています。パキスタンでは建国神話の英雄として扱われる一方、インドではアクバル帝ほどには評価されていません。アウラングゼーブの生涯は、宗教、政治、そして権力という複雑な要素が絡み合った、ドラマチックな歴史の一端を示していると言えるでしょう。

家族

アウラングゼーブには複数の妻妾と多くの子供たちがいました。彼の息子たちの中でも特に、皇位継承をめぐる争いは、帝国の衰退を加速させる要因の一つとなりました。

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