アンガラー (レーダー)

MR-310「アンガラー」 (MR-310 "Angara")

ソビエト連邦（現在のロシア連邦）において開発された、艦艇に搭載される対空捜索用のレーダーシステムです。ロシア語ではМР-310 «Ангара»と表記され、北大西洋条約機構（NATO）が使用するコードネームは「ヘッド・ネット」（Head Net）として知られています。ソビエト連邦海軍の標準的な装備として、様々な艦艇に採用されました。

開発と特徴

本シリーズの歴史は、1957年に登場した初期型モデル、MR-310A「アンガラーA」（МР-310 «Ангара-А»; NATO名：ヘッド・ネットA）から始まります。このタイプは、水平方向に細長い形状をした単一のパラボラアンテナを備えており、航空機などの目標の存在する方位と距離を把握する、いわゆる「2次元式」の捜索レーダーでした。

技術は進化し、1963年には改良型であるMR-310U「アンガラーM」（МР-310У «Ангара-М»; NATO名：ヘッド・ネットC）が登場しました。このモデルは、基本的な設計はMR-310を引き継ぎながらも、その能力を大きく向上させています。最大の特徴は、「バック・トゥ・バック」配置と呼ばれるアンテナ構成にあります。これは、従来のアンテナの背面に、もう一つ別のアンテナを約30度傾けて設置するというものでした。この独自の配置により、二つのアンテナで同時に同一目標を捉えた際の方位角に生じるわずかな差を利用して、目標の高度を計算することが可能となりました。

この高度算出能力により、「アンガラーM」は完全な電子走査式ではありませんでしたが、擬似的ながらも3次元レーダーとして機能することができました。目標の位置を3次元空間で把握できるようになったことは、特に経空脅威に対する対応能力において大きな進歩でした。ただし、ビームを電子的に瞬時に走査して高精度な高角測定を行う真の電子走査式3次元レーダーと比較すると、その性能や柔軟性においては劣る部分もありました。

運用と搭載艦艇

MR-310「アンガラー」シリーズは、ソ連海軍の多数の艦艇に広く搭載されました。その搭載艦艇は、大型の巡洋艦から駆逐艦、フリゲート、さらには一部の補助艦にまで及びます。これは、本レーダーが当時のソ連海軍において、対空捜索能力の要として位置づけられていたことを示しています。

主な搭載クラスとしては、以下のような艦艇が挙げられます。

巡洋艦クラス
58型ミサイル巡洋艦（NATO名：キンダ級）
1134型ミサイル巡洋艦（NATO名：クレスタ-I級）
1134A型大型対潜艦（NATO名：クレスタ-II級）
1134B型大型対潜艦（NATO名：カーラ級）
1123型対潜巡洋艦（NATO名：モスクワ級）
駆逐艦・フリゲートクラス
57A型大型対潜艦（NATO名：カニン級）
61型大型対潜艦（NATO名：カシン級）
61-ME型（インド海軍向け、NATO名：ラージプート級）
1135型警備艦（NATO名：クリヴァク-I級）
1135M型警備艦（NATO名：クリヴァク-II級）
補助艦艇
マーシャル・ネデリン級ミサイル追跡艦「マーシャル・ネデリン」

1970年代半ば以降、ソ連海軍にはより高性能な新型対空捜索レーダー、例えば「フレガート」シリーズなどが導入されるようになりました。これに伴い、「アンガラー」シリーズは徐々に後継機に道を譲ることとなります。搭載していた多くの艦艇が時間の経過とともに退役したこともあり、本レーダーの運用は段階的に終了へと向かっています。

関連情報

同世代の西側諸国におけるレーダーシステムとして、アメリカ合衆国が開発したAN/SPS-39などがあります。AN/SPS-39は周波数走査によって3次元情報（方位、距離、高度）を取得する能力を持つレーダーであり、「アンガラーM」が擬似的に3次元能力を実現していたのとは異なるアプローチが取られていました。

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