アンシデイの聖母

アンシデイの聖母

『アンシデイの聖母』（Pala Ansidei）は、ルネサンスの巨匠ラファエロ・サンティが1505年に制作した絵画です。この作品は、フィレンツェで活動していた時期に描かれたもので、聖母マリアが幼児キリストを抱き、木製の王座に座っている姿が特徴的です。聖母の右側には洗礼者聖ヨハネ、左側にはバーリの聖ニコラウスが配されており、そのため『玉座の聖母子と洗礼者聖ヨハネ、バーリの聖ニコラウス』という別名でも知られています。また、制作当初、この絵画は多翼祭壇画の一部として制作されたため、『アンシデイの祭壇画』とも呼ばれています。

絵画の特徴

『アンシデイの聖母』はポプラ板に油彩で描かれており、聖母マリアは堂々とした姿で玉座に座っています。描かれた玉座には肘掛けがなく、踏み段も急勾配に描かれているため、独特の威厳が感じられます。上部には弓状の建築物が描かれ、作品全体に優雅さが漂っています。

作品の中でのマリアは、静謐さと神聖さを表現しています。玉座の上部には「万歳、キリストの母 (Salve Mater Christi)」という言葉が刻まれており、ラファエロの手による名品であることを示す要素の一つです。幼児キリストと洗礼者ヨハネは、ラファエロ後期の作品に見られる自然な姿勢と感情表現が施されており、神聖な雰囲気を一層高めています。美術評論家のラスキンは、この作品がラファエロの傑作の一つであり、キリスト教教義の理念を具現化したものであると評価しています。

作品の意義

この絵画には、聖母マリアの無私の愛、幼児キリストの純粋な信頼、洗礼者ヨハネの黙想、聖ニコラウスの宗教的学識など、様々な象徴が込められています。穏やかな風景と広がる青空は神との親和を表現し、聖ニコラウスの足元にある玉のようなものは、三位一体の象徴や、彼が貧家の娘を救うために投げ入れた金の袋を象徴しているとも考えられています。

ラファエロの影響

ラファエロはフィレンツェ時代に多くの芸術家から影響を受け、その成果が『アンシデイの聖母』にも見られます。師であるペルジーノや、ドナテッロ、マサッチオ、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチなどのスタイルを巧みに取り入れ、作品に反映させました。当時23歳のラファエロは、細部まで精緻に表現したこの作品で新たな絵画技法を確立しました。背景は非常に清潔感があり、余計な装飾は一切ありません。これにより、主題が一層際立ち、訪れる者に深い感銘を与えます。

来歴

『アンシデイの聖母』はニッコロ・アンシデイの依頼で制作され、彼の家族の礼拝堂に飾られる予定でした。この作品には2点の飾り絵が付随したとされ、一つが現存する『説教する洗礼者ヨハネ』で、もう一つは聖母の婚礼と聖ニコラウスの奇跡が描かれていましたが、現在は失われています。

1763年には教会が改築された際に礼拝堂は一時的に取り壊され、その後再建されました。オリジナルの『アンシデイの聖母』は1764年にロバート・スペンサー卿によって購入され、後にマールバラ公爵家のブレナム宮殿に収納され、時には『ブレナムの聖母』とも呼ばれます。1885年にはナショナル・ギャラリーに移され、世界的に高い評価を受けています。ラファエロの作品は非常に希少で、その取引金額も歴史的に高額であることが示されています。

『アンシデイの聖母』は、ラファエロの作品の中でも特に大きな意義を持ち、今なお多くの人々に感動を与え続けています。

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