アンダルシアの散歩道

『アンダルシアの散歩道』

フランシスコ・デ・ゴヤの『アンダルシアの散歩道』は、1777年に制作された風俗画で、スペインのロマン主義における重要な作品です。この作品は、エル・パルド王宮を装飾するために制作された10点のタピスリーのカルトンの1つであり、現在はマドリードのプラド美術館で見ることができます。画面には男女のカップルと、彼らを見つめる男性たちの嫉妬を描いたシーンが展開されています。

制作背景

エル・パルド王宮はマドリード近郊に位置し、夏の離宮として使用されていました。ゴヤは1776年から1778年にかけて、この宮殿内の王太子夫妻の食堂の壁面を飾るためのタピスリーのデザインを手掛けました。当時、タピスリーの主題は主に神話や歴史が中心でしたが、ゴヤは宮廷の首席画家アントン・ラファエル・メングスの影響を受け、当時のマドリードの生活を描く風俗画を選びました。その結果、10点の作品が完成し、『アンダルシアの散歩道』もその一環として制作されました。

作品の内容

『アンダルシアの散歩道』は、緑豊かな森の中に描かれた男女のカップルと、彼らを狙う3人の男性の姿を描写しています。男女は、アンダルシアの散策路を楽しく歩いているように見えますが、彼らの背後には嫉妬が潜んでいます。特に注目すべきは、画面の左側で帽子を被った男性が、カップルに花を投げつけようとする場面です。これに対して、カップルの方が怒りを示しますが、女性はその男には他にも仲間がいることを知っており、彼女の懇願が切迫した状況を生み出します。

ゴヤはこの作品で、嫉妬や恋愛の複雑な感情を描き出しており、特に当時のサイネーテと呼ばれる風俗喜劇の影響を受けた要素が含まれています。作品のタイトルは、請求書に記載された言葉に由来していますが、もう一つのタイトル『マハとマントで顔を覆う男たち』は美術館のカタログから引用されています。

技術的な特徴

この絵画の構図には、豊かな色彩と、自然の景観が広がる縦長の形状が特徴的です。ゴヤは実際にアンダルシア地方を訪れたことがないため、ナチュラルな背景はマドリード近郊のカサ・デ・カンポの森を基に描かれていると考えられています。この作品はその後も、視覚的な魅力と人間の感情を探求する上で重要な意義を持ち続けています。

来歴

『アンダルシアの散歩道』は、スペイン王室のコレクションに由来し、1777年に王室のタペストリー工場に納品された後、王宮に移され、最終的には1870年にプラド美術館に収蔵されました。この作品は、視覚芸術におけるロマン主義の代表例として現在でも多くの人々に愛されています。

このように、『アンダルシアの散歩道』は、ゴヤの豊かな想像力と技術が融合した作品であり、各時代における恋愛の感情や人間関係の複雑さを描く貴重なアート作品となっています。

もう一度検索