アンダンテとフィナーレ (チャイコフスキー)

アンダンテとフィナーレ（Andante & Finale）作品79

ピョートル・チャイコフスキーが未完に終わらせた交響曲のスケッチを基に、セルゲイ・タネーエフが補筆・再構成したピアノと管弦楽のための協奏的作品です。

補筆の背景

この作品は、チャイコフスキーが1892年に着手したものの放棄した交響曲変ホ長調の草稿、特に緩徐楽章と終楽章部分に基づいています。チャイコフスキーは、この未完成の交響曲の草稿を転用し、フランスのピアニスト、ルイ・ディエメに完成を約束していたピアノ協奏曲を書き上げることを計画しました。具体的には、未完成交響曲の緩徐楽章を協奏曲の第2楽章、終楽章をそのまま終楽章に引き継ぐ予定でした。

1893年5月から7月にかけて改作作業に着手しましたが、第1楽章の改作を終えたところで、秋にオーケストレーションを進め、単一楽章の『演奏会用アレグロ』として完成させました。この『演奏会用アレグロ』は、後にユルゲンソン社によって『ピアノ協奏曲第3番』として出版されることになります。

しかし、チャイコフスキーは『演奏会用アレグロ』の最終ページに「第1楽章終わり」と記入しており、この記述は、彼が当初、3楽章形式の協奏曲として完成させることを想定していた可能性を示唆しています。もしかすると、チャイコフスキーは心変わりをして、残りの2楽章の作曲も考えていたのかもしれません。

いずれにせよ、チャイコフスキーの死後、第2楽章と第3楽章の草稿は放置されたままとなり、これらの楽章をどのように扱うかは、推測の域を出ない状況となりました。

ピアノ協奏曲第3番の楽章数

チャイコフスキーの死後、弟のモデスト・チャイコフスキーは、兄の友人であり、かつての弟子でもあったセルゲイ・タネーエフに、未完の作品のスケッチの仕上げを依頼しました。

タネーエフは1894年11月に、ピアノ協奏曲に転用されるはずだった緩徐楽章と終楽章の調査を開始し、モデストに「ピョートル・イリィチのノートから、未来のピアノ曲の2楽章のスケッチを書き写しました。まず私は浄書して、それからそれらのオーケストレーションに取りかかっています。〈アンダンテ〉は惚れ惚れしますが、惜しむらくはピョートル・イリィチはこれを管弦楽のために残したのではなく、ピアノ曲に編曲していたのです」と書き送りました。

タネーエフとモデストは、この楽曲を交響曲の2楽章とするか、ピアノと管弦楽のための2楽章として完成させるかで悩みましたが、最終的に協奏曲形式に改作することにしました。タネーエフは1895年8月24日に、モデストに「ピョートル・イリィチのピアノ曲の管弦楽化を終えました。私はモスクワに着き次第、最後の仕上げをしたら総譜をあなたに手渡します」と報告しています。

しかし、総譜の改訂は遅々として進まず、タネーエフは1896年2月26日の私信の中で「それはもうじき調います」と約束しています。

また、この2楽章をどのように出版すべきかも問題でした。すでにユルゲンソン社が、協奏曲の開始楽章を独立した楽曲として出版していたため、話はさらに複雑化しました。

最終的に、モデストとタネーエフは『アンダンテとフィナーレ』を、演奏会用序曲『運命』『嵐』、および交響的バラード『地方長官』とまとめて、ベリャーエフ社に委託しました。

ベリャーエフ社は、1897年にタネーエフ版の『アンダンテとフィナーレ』（ピアノと管弦楽のための版）を出版しました。この作品は、『ピアノ協奏曲第3番』とは別個の作品として発表されましたが、ゆかりのある作品であることから、『ピアノ協奏曲第3番』に作品75という番号が付けられたのに対し、『アンダンテとフィナーレ』には作品79という番号が付けられました。

初演は1897年2月8日にサンクトペテルブルクで、タネーエフをソリストとして行われました。

その後、タネーエフは1898年10月17日に、モスクワで開かれた「ロシア交響楽演奏会」において、ニコライ・リムスキー＝コルサコフの指揮で『アンダンテとフィナーレ』を再演し、その際、ピアノパートにいくつかの修正を加えました。

楽曲

チャイコフスキーが『ピアノ協奏曲第3番』を正規の3楽章の協奏曲として完成させるつもりで、アンダンテ楽章と終楽章をそのまま使おうとしたのか、それとも新たに作曲し直そうとしたのかは、結局のところ不明です。作品75と作品79を併せればチャイコフスキーの意図した完全な協奏曲になると受け取るのは誤解である、という指摘もあります。

チャイコフスキー研究家のジョン・ウォーラックは、「現存しているのは、チャイコフスキーが計画中のいくつかの楽想を、協奏曲形式で再構成したものではあるが、チャイコフスキーの純然たるピアノ協奏曲ではない」と述べています。

また、タネーエフが引き継いだ際、アンダンテ楽章の楽器法は、木管楽器、ホルン、弦楽器に切り詰められましたが、終楽章では通常の編成に戻されました。ウォーラックは、アンダンテ楽章について「単純な歌曲風の楽章だが、中間部ではチェロ独奏とピアノの対話が導入され、非常に説得力あるチャイコフスキー風の流儀でこのデュエットが扱われる」と評しています。

一方、アレグロ・ブリランテ楽章については、「終楽章より成功している」と述べる一方で、「軍楽風の終楽章“アレグロ・マエストーゾ”は、交響曲の総括にはほとんどなり得なかったのだから、その役目を協奏曲で割り振られても、ほとんど無力なのである」と批判しています。

ウォーラックは、この楽曲をどう扱うかの最良の解決法は、『ピアノ協奏曲第3番』をチャイコフスキーが遺した通り、単一楽章の作品として演奏することだとしています。

楽曲編成

独奏ピアノ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、スネアドラム、シンバル、弦楽合奏。

『ピアノ協奏曲第3番』とほぼ同じですが、打楽器が追加されています。

楽曲構成

アンダンテ：変ロ長調、4分の3拍子。三部形式。
フィナーレ：アレグロ・マエストーゾ、変ホ長調、4分の4拍子。コーダの付いたロンド形式。

参考文献

Brown, David, Tchaikovsky: The Final Years (New York: W. W. Norton & Company, 1992)
Hanson, Lawrence and Elisabeth, Tchaikovsky: The Man Behind the Music (New York: Dodd, Mead & Company)
Poznansky, Alexander, Tchaikovsky's Last Days (Oxford: Oxford University Press, 1996)
Poznansky, Alexander Tchaikovsky: The Quest for the Inner Man (New York: Schirmer Books, 1991)
Poznansky, Alexander. Tchaikovsky Through Others' Eyes (Bloomington: Indiana University Press, 1999)
Schonberg, Harold C., The Great Pianists
Warrack, John, Tchaikovsky Symphonies and Concertos (Seattle: University of Washington Press, 1969)

外部リンク

Andante and Finaleの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
http://www.tchaikovsky-research.org/en/Works/th241.html
http://www.tchaikovsky-research.org/en/Works/th238.html

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