アンダーカレント (漫画)

アンダーカレント

豊田徹也による漫画『アンダーカレント』は、講談社の漫画雑誌『月刊アフタヌーン』にて、2004年10月号から2005年10月号にかけて掲載されました（一部休載号あり）。静謐な筆致で人間の内面や心の揺らぎを描き出し、国内外で高く評価された作品です。2009年にはフランスのアングレーム国際漫画祭でオフィシャルセレクションに選ばれ、さらに同年パリ郊外で開催されたJapan ExpoにてACBDアジア賞を受賞するなど、特に海外での評価が顕著です。そして、2023年には待望の実写映画が公開され、再び注目を集めました。

物語の中心となるのは、地方都市で銭湯「月乃湯」を営む関口かなえです。父の死後、夫の悟と共に銭湯を引き継ぎますが、ある日突然、悟が姿を消してしまいます。夫の失踪により月乃湯は休業を余儀なくされますが、かなえは気力を振り絞って営業を再開。そんな折、銭湯組合の紹介で堀隆之という男が住み込みで働き始めます。どこか謎めいた雰囲気を持つ堀との共同生活が始まる中、かなえは大学時代の友人・よう子と再会し、夫の行方を捜すため探偵の山崎を紹介されます。一見胡散臭い印象の山崎でしたが、捜査は真摯に進められ、やがて悟の過去について、かなえがこれまで知っていたものとは全く異なる事実が明らかになっていきます。

悟の行方は依然として掴めないまま、かなえは銭湯の設備を一新しようと、薪焚きに代わる重油バーナーの導入を計画します。中古品を引き取るため、堀の運転で廃業した銭湯を訪れますが、そこは数日前に火災で焼け落ちており、火を放ったとみられる店主も失踪していました。この出来事の帰り道、動揺したかなえは、自身が繰り返し見る悪夢について堀に語り始めます。それは、幼い頃の自分が何者かに首を締められ水中に沈められるものの、それに抵抗しないという奇妙な夢でした。

探偵の山崎からは、悟が過去に勤務していた会社で、部下の横領罪を被る形で退職した可能性が報告されます。しかし、その部下だった女性のもとにも悟は現れていないと聞き、かなえは悟の捜索を一旦打ち切ります。そんな折、月乃湯の常連である小学生のみゆが何者かに連れ去られる事件が発生。不安に駆られたかなえは、幼少期にみゆにそっくりな親友「さなえ」がいたことを思い起こします。みゆは無事に保護されますが、この出来事を機に、かなえは自身の過去の記憶と向き合うことになります。小学生の頃、かなえとさなえは変質者に襲われました。逃げるかなえに対し、変質者は口止めを強要。さなえは殺害され、池で発見されます。恐怖から変質者のことを誰にも話せなかったかなえは、さなえに関する記憶を封印し、首を締められる悪夢だけを見続けていたのです。過去のトラウマが蘇り、精神的に追い詰められたかなえは、錯乱状態で堀に助けを求めるかのように「私を殺して」と懇願します。

夫の捜索を継続していた探偵の山崎から、ついに悟が見つかったという連絡が入ります。再会した悟は、幼少期からの虚言癖があったことを告白。必要のない嘘をつき、辻褄が合わなくなると姿を消すのが彼の生き方でした。過去の会社での横領も自らが犯したものであり、部下の罪を被ったように見せかけて退職し、かなえの前に現れて結婚したと真実を打ち明けます。「本当のことが話せなかった」と語る悟に対し、かなえもまた、彼の一番大切な部分を見ていなかったと気づき、離婚を決断します。

一方、荷物をまとめ月乃湯を出ていく準備をしていた堀は、親しくしていた近所の煙草屋の主人から、さなえの事件について聞かされます。主人は、堀がさなえの兄であることを見抜いていたのです。事件後、町を離れたさなえの家族でしたが、偶然大人になったかなえを見かけた堀は、亡き妹の面影を重ね、素性を隠して月乃湯にやってきたのでした。町を去る決意が揺らぎ、月乃湯に戻った堀は、かなえから夕食に招かれます。食事中、堰を切ったように泣き出した堀は、ついに自身がさなえの兄であることをかなえに打ち明けるのでした。二人の過去が交錯し、物語はクライマックスへと向かいます。

書籍情報

本作は講談社より単行本として刊行されています。

豊田徹也『アンダーカレント』（講談社〈アフタヌーンKCDX〉、全1巻、2005年11月22日発売、ISBN 978-4-06-372092-1）

映画情報

2023年10月6日に実写映画が公開されました。監督は今泉力哉、音楽は細野晴臣、主演は真木よう子が務めています。探偵・山崎役を演じたリリー・フランキーが、原作のキャラクターモデルであることも話題となりました。

主要キャスト：

関口かなえ：真木よう子
堀隆之：井浦新
菅野よう子：江口のりこ
関口悟：永山瑛太
山崎道夫：リリー・フランキー

スタッフ：

原作：豊田徹也『アンダーカレント』（講談社「アフタヌーンKC」刊）
監督：今泉力哉
音楽：細野晴臣
脚本：澤井香織、今泉力哉
製作：「アンダーカレント」製作委員会
配給：KADOKAWA

企画・製作プロダクション：ジョーカーフイルムズ、製作幹事：ジョーカーフイルムズ、朝日新聞社が名を連ねています。

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