アンティパテース

アンティパテース（古希: Ἀντιφάτης, ラテン語: Antipatēs）は、古代ギリシアの神話に登場する複数の人物に与えられた名前である。長母音を省略してアンティパテスとも表記される。特に知られているのは、アルゴスの王族である人物と、巨人の王としてオデュッセウスと敵対した人物である。

メラムプースの息子

このアンティパテースは、優れた予言能力を持ち、アルゴスの王の一人にもなったメラムプースと、イーピアナッサ（あるいはメガペンテースの娘イーピアネイラとも）との間に生まれた子である。兄弟にはマンティオスやアバースがおり、またビアース、プロノエー、マントーといった兄妹もいたとされる。彼はヒッポコオーンの娘ゼウクシッペーと結婚し、オイクレースとアムパルケースという息子をもうけた。特に息子オイクレースは、後に有名な予言者アムピアラオスの父となる人物である。叙事詩『オデュッセイアー』を著したホメーロスは、このアンティパテースとその兄弟マンティオスを、共に勇敢な戦士であったと伝えている。

ライストリューゴーン族の王

もう一人の著名なアンティパテースは、ホメーロスの『オデュッセイアー』に登場する、人喰い巨人であるライストリューゴーン族を支配する王である。彼には妻と娘がいた。

物語によると、トロイアからの帰還を目指すオデュッセウス一行は、航海の途中でライストリューゴーン族の国、テーレピュロスの港にたどり着いた。オデュッセウスは偵察のため3人の部下を陸地に派遣した。彼らは巨大な王女に出会い、アンティパテース王の館の場所を尋ねてそこを訪れた。しかし、館に足を踏み入れた部下たちが目にしたのは、山のように巨大な王妃の姿だった。その威容に驚愕する部下たちの前で、王妃はすぐさま夫である王アンティパテースを呼びに行った。

現れたアンティパテース王は、偵察に来た部下たちの一人を捕まえると、容赦なく食らってしまった。この恐ろしい光景を目にした残りの二人の部下は、慌てて船に戻り、オデュッセウスに危機を知らせた。

報告を受けたオデュッセウスがすぐさま逃走の準備を命じる中、アンティパテース王は港に向かって大声で叫び、仲間である他のライストリューゴーン族の巨人を呼び集めた。集まった巨人たちは、港に停泊していたオデュッセウスの船団に向けて巨大な岩を投げつけ始めた。彼らの圧倒的な怪力による攻撃で、多くの船が破壊され、乗組員たちは海に投げ出された。巨人は海に落ちた兵士たちを釣り上げるように串刺しにして持ち帰り、食料とした。

結局、ライストリューゴーン族の国から無事脱出できたのは、オデュッセウス自身が乗っていた船ただ1隻のみであり、他の11隻とその乗組員のほとんどが、この恐ろしい王とその眷属によって滅ぼされたのである。

その他の人物

上記の二人以外にも、「アンティパテース」という名前を持つ人物が神話に登場する。

トロイア戦争において、アカイア軍の英雄レオンテウスによって討たれたトロイア人の一人。
ゼウスの子サルペードーンと、テーバイ出身のある女性との間に生まれた子。イタリアの戦いにおいて、トロイアの地を追われたアイネイアースと敵対するトゥルヌスによって命を奪われた。

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