ライストリューゴーン族

ライストリューゴーン族とは

ライストリューゴーン族（古代ギリシア語ではΛαιστρυγών、複数形はΛαιστρυγόνες）は、古代ギリシア神話に語られる恐ろしい存在です。彼らは単なる人間とは異なり、巨人にも近い巨大な体躯と圧倒的な怪力を持ち、その性質は極めて残虐で、遭遇した者を捕らえて貪り食らう、まさに人喰いの種族として知られています。その名は長母音を省略してライストリュゴン族とも表記されることがあります。

彼らが最も有名に描かれているのは、吟遊詩人ホメーロスによる壮大な叙事詩『オデュッセイアー』です。トロイア戦争での勝利後、故郷イタケーへの帰還を目指すオデュッセウスとその部下たちが、旅の途上でこの恐ろしい種族が支配する土地に立ち寄り、悲惨な結末を迎えるエピソードが語られています。

オデュッセウスの遭遇

『オデュッセイアー』によれば、オデュッセウスは風の神アイオロスの島で、故郷へ導くための風を袋に封じてもらうという大きな助けを得ました。しかし、故郷を目前にして部下たちが袋を開けてしまったため、強風によって再びアイオロスの島へと押し戻されてしまいます。アイオロスは、もはやオデュッセウスは神々に忌み嫌われた者だと見なし、彼の再度の懇願を退けて島から追い払いました。絶望的な状況の中、オデュッセウス一行は再び船を出し、海を彷徨うことになります。

七日間の過酷な航海の末、彼らが辿り着いたのがライストリューゴーン族の国でした。この土地は、地理的に非常に特異な場所に位置していました。天空における昼の通路と夜の通路の間が極めて狭く、そのため太陽が沈むやいなや夜明けが訪れるかのように、夜に牧場から家畜を連れて帰る者と、朝早く牧場へ出かける者が挨拶を交わせるほどだったと言われています。眠る必要のない者にとっては、一日のうちに牛と羊の両方の世話ができるほど、時間の流れが凝縮されているかのような場所でした。

オデュッセウス一行が到着したのは、かつてライストリューゴーン族の王ラモスが築いたとされるテーレピュロスという町の天然の良港でした。この港は、両側が切り立った絶壁に囲まれ、その入口も岬が突き出ているために非常に狭くなっており、まさに要塞のような地形をしていました。また、この国にはアルタキエーという泉があり、ライストリューゴーン族の人々は皆この泉から水を汲んで生活していました。

港に船団を停泊させたオデュッセウスは、船を危険から守るため、敢えて港の一番外側に一隻ずつ鎖で繋いで船団を固定しました。そして、自らは高い岩壁によじ登り、遠方を見渡しましたが、近くに人の生活している気配が見当たらなかったため、三人の部下を偵察に派遣することにしました。

部下たちはアルタキエーの泉の近くで、ライストリューゴーン族の王であるアンティパテースの娘に出会いました。彼女に王の館の場所を尋ね、そこを訪ねたのですが、彼らを待ち受けていたのは想像を絶する光景でした。アンティパテース王は部下たちを見るやいなや、すぐにその一人を捕まえると、まるで家畜のように調理し、貪り食い始めたのです。

生き残った二人の部下は、あまりの光景に恐れおののき、一目散に船へと逃げ帰りました。彼らの報告を受けたアンティパテースは激怒し、大声で他のライストリューゴーン族を呼び集めました。集結した巨人たちは、オデュッセウスの船団めがけて、巨大な岩を次々と投げつけ始めました。狭い港に密集していたオデュッセウスの船は、飛来する岩によって次々と粉々に砕かれ、乗組員たちは串刺しにされるか、あるいは捕らえられてライストリューゴーン族の食料として持ち帰られてしまいました。

オデュッセウスは混乱の中で船の鎖を断ち切り、自らの船一隻だけを急いで港から脱出させるのが精一杯でした。こうして、彼はほとんど全ての船と多くの忠実な部下たちを、ライストリューゴーン族の餌食として失うことになったのです。

後世の伝承

ホメーロスが描いたライストリューゴーン族の国の具体的な場所については、後世の地理学者や歴史家によって様々な説が唱えられました。彼らの国は、イタリア半島の南に位置するシケリア島、あるいはイタリアのカンパーニア地方にあるフォルミアイのあたりであったと比定されることがあります。いずれにせよ、このエピソードは、オデュッセウスの長く苦難に満ちた帰還の旅における、最も破壊的で絶望的な出来事の一つとして記憶されています。

ライストリューゴーン族は、単なる怪物の群れとしてだけでなく、航海者が未知の土地で遭遇する可能性のある、野蛮で危険な存在の象徴として、古代の人々の心に深く刻まれたことでしょう。

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