アントニウス・ボードウィン

アントニウス・フランシスクス・ボードウィン：日本の近代医学に貢献したオランダ軍医

アントニウス・フランシスクス・ボードウィン(1820-1885)は、オランダ出身の軍医であり、日本の近代医学の発展に大きく貢献した人物として知られています。フランス系家庭に生まれた彼は、ユトレヒト陸軍軍医学校とユトレヒト大学医学部で医学を学び、オランダ陸軍に入隊。その後、ユトレヒト陸軍軍医学校で教官を務めました。

1862年、弟のアルベルトゥス・ヨハネス・ボードウィンの働きかけにより、江戸幕府の招きで来日します。長崎養生所の教頭として着任したボードウィンは、江戸、大阪、長崎を巡りながら蘭医学の普及に尽力しました。養生所の基礎科学教育の充実にも力を注ぎ、幕府に対し医学・理学学校の建設を提言。その準備のため1866年に教頭を離任し、緒方惟準ら留学生を伴って一旦帰国しますが、大政奉還により計画は頓挫。1867年には再来日し、新政府に対して同様の提言を行いました。

帰国後も、大阪府仮学校や大阪陸軍病院、大学東校などで教鞭をとり、1873年にはオランダ陸軍軍医に復職。1884年に退役し、翌年ハーグで亡くなりました。明治13年には勲四等に叙せられています。

ボードウィンの活動は医学教育の普及にとどまりません。彼は、本国からクーンラート・ハラタマらを招聘し、日本の物理学や化学教育の充実にも貢献しました。また、上野に病院建設の計画が持ち上がった際、上野の自然環境保全の必要性を訴え、現在の上野恩賜公園となる区域の公園指定を提言したという逸話も残されています。上野公園には、彼の功績を称える銅像「ボードワン博士像」が建立されています。

特に眼科の分野に秀でており、日本に初めて検眼鏡を導入した人物としても知られています。さらに、彼が日本に持ち込んだ健胃剤の処方が、のちに太田胃散や守田宝丹といった日本の医薬品へと発展したという歴史的側面も持っています。これらの薬は、その後も改良を重ね、現在に至るまで市販されています。

ボードウィンは、アマチュア写真家としても知られており、多くの日本に関する写真を残しました。彼の弟、アルベルト・ボードイン（オランダ通商会社の代理人として出島に滞在）と協力して、日本の風景や人物を撮影するとともに、フェリーチェ・ベアトらプロの写真家による作品も収集しました。これらの写真は美しいアルバムに収められ、オランダに持ち帰られました。約140年後の2007年、主要な部分（アルバム4冊など）が長崎大学に寄贈され、「ボードインコレクション」として長崎大学附属図書館に保存されています。

ボードウィンの生涯と活動は、日蘭関係の歴史、日本の近代医学の発展、そして写真史においても重要な位置を占めています。彼の功績は、現在も様々な形で私たちに語り継がれています。彼の活動は、単なる医学の普及にとどまらず、日本の近代化に貢献した重要な歴史的出来事として、後世に語り継がれるべきでしょう。彼の残した写真コレクションは、当時の日本の姿を伝える貴重な資料として、研究者の間で高く評価されています。法性寺には、ボードウィンの旧居跡を示す顕彰碑も残されており、彼の日本での生活を偲ぶことができます。

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