アントニオ・ディ・ポルチア・エ・ブルニェーラ伯爵の肖像

アントニオ・ディ・ポルチア・エ・ブルニェーラ伯爵の肖像

『アントニオ・ディ・ポルチア・エ・ブルニェーラ伯爵の肖像』は、盛期ルネサンスのヴェネツィア派を代表する画家、ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1535年から1540年頃に制作した油彩画です。この作品は、もともとポルデノーネ近郊のポルチア城にありましたが、後にミラノのアルフォンソ・ポルチアの邸宅に移されました。その後、エウジェニア・リッタ・ヴィスコンティ・アレーゼ伯爵夫人が相続し、1892年にミラノのブレラ美術館に寄贈されました。

作品の特徴

この肖像画は、ティツィアーノが肖像画家として成熟期を迎えていた時期に描かれました。若年期には人物の理想的な美しさを追求していたティツィアーノですが、成熟期には人物の社会的地位や内面を深く掘り下げるようになりました。本作では、アントニオ・ディ・ポルチア伯爵の威厳と品格が、黒い衣服、剣、そして金の鎖などの細部にわたって丁寧に描写されています。

描かれているアントニオ・ディ・ポルチアは、フリウリ出身の貴族で、ポルチア城の城主でした。彼は正面を向き、精悍な顔つきで静かに佇んでいます。胸元には、豪華な金の鎖が輝き、その下に飾りが下がっています。画面下部には、剣の柄と白いカフスが僅かに見えます。左手は手すりにゆったりと置かれ、その貴族的な雰囲気を際立たせています。

背景には窓があり、遠くの風景が垣間見えます。これは、ティツィアーノが若い頃によく用いた手法です。風景は伯爵の領地の一部であると考えられ、遠景には日没前の光が滝を照らす瞬間が描かれています。窓の端には、画家の署名「Titianus」が記されています。

制作年について

美術史家のゲオルク・グロナウは、作品の様式から、制作年を1540年から1543年頃と推定しています。彼は、同時期のティツィアーノの他の作品との類似性を指摘し、この時期の制作であると主張しました。一方で、ブレラ美術館は、制作年をやや早く、1535年から1540年頃としています。

作品の歴史と現在

この肖像画は、ティツィアーノの成熟期の傑作として評価され、現在ではブレラ美術館の重要なコレクションの一つとなっています。ティツィアーノの卓越した技術と、人物の内面を捉える洞察力が融合したこの作品は、多くの観客を魅了し続けています。

参考文献

『ブレラ　絵画館全作品ガイド』、SCALA、1977年　ISBN 978-888117680-9
千足伸行監修『週刊世界の美術館 No.67 ブレラ美術館』、講談社、2001年6月刊行
Gronau, Georg (1904). Titian. London: Duckworth and Co; New York: Charles Scribner's Sons. pp. 130–131, 293.
Ricketts, Charles (1910). Titian. London: Methuen & Co. Ltd. p. 183, plate xcvi.
"Portrait of Count Antonio Porcia and Brugnera". Pinacoteca di Brera. Retrieved 10 March 2023.

外部リンク

ブレラ美術館公式サイト、ティツィアーノ『アントニオ・ディ・ポルチア・エ・ブルニェーラ伯爵の肖像』 （英語）

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