アントニオ・ヴェッリオ

アントニオ・ヴェッリオ（Antonio Verrio, 1636年頃 - 1707年6月15日）は、17世紀にイタリアで誕生し、主にイギリスで宮廷画家として名を馳せた人物です。彼の芸術的才能は、特に建物の壁画や天井画といった装飾画において発揮され、その作品は今日においても重要な文化遺産として評価されています。

生涯

ヴェッリオは、ナポリ王国のレッチェで生まれました。彼自身の記録によると、ヴェネツィアで絵画を学び、その後ナポリやフランスのトゥールーズで活動したとされています。1671年または1672年頃にイギリスへ渡り、壁画や天井画の画家として頭角を現しました。1676年頃には、チャールズ2世の依頼により、ホワイトホール宮殿やウィンザー城の一部に装飾画を描くという大役を任されています。

1684年、ヴェッリオはチャールズ2世によって、ピーター・レリーの後任として主席宮廷画家に任命されました。これは彼のキャリアにおける大きな転換点であり、その画力が公式に認められたことを意味します。しかし、1685年に王位を継承したジェームズ2世はヴェッリオを重用せず、彼は王室の庭師としての仕事に就くことになりました。これは、政治的な変動が芸術家のキャリアに影響を与える例として興味深い点です。

1688年の名誉革命でウィリアム3世が王位に就いた後も、ヴェッリオは再び宮廷画家として活躍することはありませんでした。主席宮廷画家の座はゴドフリー・ネラーに引き継がれ、ヴェッリオは新たなパトロンを求めざるを得なくなります。1690年からは、デヴォンシャー公爵の邸宅であるチャッツワース・ハウスの装飾画を手掛けました。この時期の作品も、彼の高い技術と芸術性を証明するものとして評価されています。

1694年から1697年の間には、エクセター伯爵のバーリー・ハウスの装飾画を制作しました。そして1699年、ようやく国王のためにウィンザー城やハンプトン・コート宮殿での仕事の機会を得ます。しかし、1705年に眼病を患い、その後は引退することとなりました。彼の晩年は、病との闘いとともに、自身のキャリアを振り返る時間だったのかもしれません。

作品の特徴

ヴェッリオの作品は、その壮大さと装飾性の高さが特徴です。彼は、古典的なテーマを扱いながらも、バロック様式のダイナミックな表現を巧みに取り入れ、見る者を圧倒するような空間を作り上げました。彼の描く人物像は、生き生きとしており、表情豊かで、物語を語りかけるような印象を与えます。特に、壁画や天井画においては、空間全体を一つの絵画作品として捉え、見る者をその世界観に引き込むような演出が施されています。

評価

ヴェッリオは、イギリスにおけるバロック絵画の重要な担い手の一人として、美術史において重要な位置を占めています。彼の作品は、その後のイギリスの美術に大きな影響を与え、多くの画家たちにインスピレーションを与えました。また、彼の生涯は、芸術家が社会の変化や政治的な状況にどのように影響を受けるかを示す、興味深い事例としても注目されています。

参考文献

Ellis Kirkham Waterhouse: Painting in Britain, 1530 to 1790. Yale University press, New Haven 1994. ISBN 0-300-05832-2, S. 125–126
The Oxford Dictionary of Art and Artists. Oxford University Press, Oxford 2009. ISBN 978-0-19-953294-0, S. 656
* Raffaele De Giorgi, "Couleur, couleur!". Antonio Verrio: un pittore in Europa tra Seicento e Settecento. Edifir, Firenze 2009, ISBN 978-88-7970-449-6

もう一度検索