ピーター・レリー

ピーター・レリー（Sir Peter Lely, 1618年9月14日 - 1680年11月30日）は、17世紀にイングランドで活躍した著名な画家です。オランダ人の両親のもと、ザクセン公国のゾーストでピーテル・ファン・デル・ファースとして生まれました。彼はハールレムで絵画を学び、ピーテル・デ・グレッベルの指導を受けたとされています。1637年には聖ルカ組合に画家として登録され、その頃から「レリー」の姓を使用するようになりました。これは、彼の父親の家の外壁に描かれていたユリ（Lily）の紋章に由来します。

1641年頃にロンドンに移住したレリーは、当時の宮廷画家アンソニー・ヴァン・ダイクの死後、その作風を受け継ぎ、初期の作品では神話画、宗教画、風景を背景にした肖像画などを制作しました。彼の肖像画はすぐに評判となり、ヴァン・ダイクの後継者としてイングランドで最も重要な肖像画家としての地位を確立しました。1647年にはロンドンの画家名誉組合の一員となり、イングランド王チャールズ1世の肖像画家にも任命されました。チャールズ1世処刑後も、護国卿オリバー・クロムウェルやその息子リチャード・クロムウェルの肖像画も手がけ、その才能は高く評価されました。

1660年の王政復古後、レリーはチャールズ2世から主席宮廷画家の地位と年金を与えられ、その待遇はヴァン・ダイクと同等でした。1662年にはイングランドに帰化し、1680年にはナイトの称号を得ますが、その直後にコヴェント・ガーデンでサマセット公爵夫人の肖像画を描いている最中に亡くなりました。

レリーの工房は大量の絵画を制作し、その多くはレリーが頭部のみを描き、弟子たちが残りの部分を仕上げるという手法が取られました。このため、彼の作品には品質にばらつきが見られるものの、その数は膨大です。彼の弟子には、ジョン・グリーンヒルやウィレム・ウィッシングなどがいます。

レリーの代表作としては、ハンプトン・コート宮殿に所蔵されている『ウィンザー・ビューティ』、オルソープ館所蔵の肖像画群、『フラグメン・オブ・ロウストフト』、バーリー・ハウス所蔵の『スザンナと長老たち』、ダリッジ・ピクチャー・ギャラリー所蔵の『噴水のニンフ』などが挙げられます。また、レリーはメゾチント技法をイングランドに広め、自身の作品を版画化しました。この技法は、後の英国版画の発展に大きな影響を与えました。

レリーの死後、宮廷画家にはゴドフリー・ネラーが任命されました。ネラーもまたレリーと同様にドイツ生まれのオランダ人であり、当初はレリーの作風を模倣していましたが、後に大陸の流行を取り入れた作風へと変化しました。レリーとネラーはイングランドの肖像画の基礎を築きましたが、彼らの作風を受け継いだ画家たちの作品はその後数十年間、あまり発展を見せなかったと言われています。

レリーは画家としての才能だけでなく、美術コレクターとしても知られており、彼が収集したコレクションは、ヴェロネーゼ、ティツィアーノ、クロード・ロラン、ルーベンスなどの巨匠の作品や、素晴らしいドローイングを多数含んでいました。これらのコレクションは彼の死後、総額26,000ポンドという巨額で売却されました。また、彼のコレクションにはチャールズ1世のコレクションから散逸した『レリーのヴィーナス』のような作品も含まれており、後に王室が再購入してロイヤル・コレクションに収められました。

ピーター・レリーは、その生涯を通じてイングランド美術界に大きな足跡を残した画家であり、彼の作品は今日でも多くの人々に愛されています。

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