アントニニアヌス

アントニニアヌス：ローマ帝国のインフレーションを象徴する貨幣

アントニニアヌスは、ローマ帝国時代に流通した銀貨の一種であり、特に3世紀のインフレーションの時代を象徴する存在です。その誕生から終焉までを詳しく見ていきましょう。

アントニニアヌス誕生の背景

アントニニアヌスは、215年にカラカラ帝によって導入されました。当初は2デナリウス相当の価値を持つ銀貨として位置づけられました。カラカラ帝は、兵士への給与支払いの必要に迫られ、新たな貨幣を発行することで財政を安定させようとしました。しかし、このアントニニアヌスは、発行当初から問題を抱えていました。

品位の低下とインフレーション

アントニニアヌス貨の銀含有量は、導入当初からデナリウス貨の1.5倍しかありませんでした。これは、貨幣の実質価値が額面価値を下回ることを意味し、インフレーションを引き起こす要因となりました。人々は、より銀含有量の多いデナリウス貨を蓄え、アントニニアヌス貨が市場に流通するようになり、物価が上昇しました。

ローマ帝国は、領土拡大が停滞し、銀の供給が不足する状況にありました。そのため、アントニニアヌス貨の銀含有量は、発行の度に減少し、インフレーションはさらに加速しました。3世紀末には、セステルティウス貨などの古い硬貨を溶かして、ほとんど青銅製のアントニニアヌス貨が大量に製造されるようになりました。粗悪な偽造硬貨も大量に出回り、市場は混乱しました。

大量発行と価値の喪失

アントニニアヌス貨は大量に発行され、その価値は著しく低下しました。無価値となった硬貨が数百万枚単位で処分される事態となり、アントニニアヌス貨は現在でも大量に残存しています。これは、ヴァイマル共和政時代のハイパーインフレーションとは異なる状況でしたが、政府が対応すべき重要な問題であったことに変わりはありません。

3世紀末には、一連の通貨改革が行われ、アントニニアヌス貨は使用されなくなり、全く新しい通貨が発行されるようになりました。

アントニニアヌスの名称について

「アントニニアヌス」という名称は、後世の貨幣研究者が名付けたもので、当時の呼称は不明です。Historia Augustaという文献に、この硬貨がアントニヌスにちなんで名付けられた銀貨と記述されていたことから、この名が用いられるようになりました。カラカラ帝の本名に「アントニヌス」が含まれていることも、この命名の理由の一つと考えられています。

アントニニアヌスは、ローマ帝国の財政政策の失敗とインフレーションの歴史を物語る、重要な貨幣です。その変遷を辿ることで、古代ローマ帝国の経済状況や社会情勢をより深く理解することができます。

関連項目

* 古代ローマの通貨

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