アントン・トカシュ

アントン・トカシュ（Anton Tkáč）は、1951年3月30日にチェコスロバキア（現スロバキア）のロゾルノで生まれ、2022年12月22日に亡くなった、トラックレースを専門とする元自転車競技選手です。

トカシュはアマチュア選手として、数々の輝かしい成績を収めました。1974年の世界自転車選手権では、スプリント種目で見事優勝。その2年後の1976年モントリオールオリンピックでは、スプリント種目で金メダルを獲得しました。このオリンピックでは、フランスのダニエル・モレロンが同種目3連覇を狙っていましたが、トカシュはこれを2-1で破り、金メダルを手にしたのです。さらに、1978年の世界選手権でもアマスプリントで優勝し、その実力を世界に示しました。

これらの功績が認められ、トカシュは1976年のチェコスロバキア・スポーツマンオブザイヤー（Sportovec roku）を受賞しています。

中野浩一との伝説のエキシビションマッチ

1979年、トカシュは西宮競輪場で開催された全日本プロ選手権自転車競技大会（全プロ大会）に招待選手として参加しました。この大会で、前年の世界自転車選手権アマスプリント優勝者であったトカシュは、同プロスプリント優勝者である中野浩一とスプリントのエキシビションマッチ（1回勝負）を行いました。結果は、最後の直線でトカシュが内側から追い抜き、中野を破るという劇的なものでした。

当時、スプリント種目で全盛期を迎えていた中野を破った数少ない事例として、このエキシビションマッチは語り継がれています。しかし、正規の自転車競技ルールに照らし合わせると、トカシュの走法はスプリントレーン外を一定距離以上走行したとみなされる可能性があり、反則行為にあたります。もっとも、これはあくまでエキシビションマッチであったため、特に抗議もなく終了しました。当時の月刊サイクルスポーツ誌にも「トカシュの内線突破にも中野抗議せず」という記述が残されています。

アントン・トカシュは、その実力と記憶に残るエキシビションマッチによって、自転車競技史にその名を刻んだ選手と言えるでしょう。

もう一度検索