アントン・プレトリウス

アントン・プレトリウス：魔女裁判に異議を唱えたカルヴァン派牧師

アントン・プレトリウス（Anton Praetorius, 1560年 - 1613年）は、16世紀から17世紀にかけてのヨーロッパにおいて、魔女裁判の不当性と拷問の非人道性を訴えたカルヴァン派の牧師であり、人文主義者です。彼は、魔女狩りが横行する時代に、勇気をもって異議を唱え、その思想と行動は後世に大きな影響を与えました。

生涯と業績

プレトリウスは、1560年にリップシュタットで生まれました。本姓はシュルツェでしたが、後にラテン語風の「プレトリウス」に改名しました。神学を修めた後、人文主義的なラテン語学校の校長となり、その後、カルヴァン派の中心地であったハイデルベルクで牧師を務めました。

ハイデルベルク時代には、巨大なワイン樽に感銘を受け、その大きさをカルヴァン派信仰の優位性の証と見なしたラテン語詩を発表しました。また、領主であるイーゼンブルク＝ビューディンゲン＝ビルシュタイン伯ヴォルフガング・エルンストに宛てた詩の中では、キリスト教的権力者に対し、福音とカルヴァン派の信仰に基づいて民衆と教会を改革するよう訴えました。

1597年、プレトリウスはビルシュタイン城の主任牧師に任命されました。そこで彼は、4人の女性が魔術の罪で拷問にかけられる場面に遭遇します。プレトリウスは、拷問に苦しむ女性たちの姿に深く心を痛め、激しく抗議し、ついに拷問を中止させることに成功しました。この出来事は、ビルシュタイン城の魔女裁判記録にも記されています。

しかし、この抗議が原因で、プレトリウスは伯爵から解雇されてしまいます。その後、彼はラウデンバッハ教区に移り、著書『妖術と魔女に関する徹底報告』を執筆し、魔女狩りと拷問に反対する姿勢を明確にしました。この著書は、当初は息子の名前を借りて出版されましたが、後に実名で再版され、死後も版を重ね、多くの人々に読まれました。

魔女裁判と拷問への反対

プレトリウスは、『徹底報告』の中で、魔女裁判における拷問の非人道性と、告発された人々の苦しみを詳細に描写しました。彼は、マルティン・ルターやジャン・カルヴァンといった宗教改革者たちが魔女の摘発と処刑を支持していたのに対し、明確に反対の立場を取りました。プレトリウスの勇気ある行動と著述は、魔女裁判に対する批判の声を高め、後の時代における魔女狩りの終焉に貢献しました。

アントン・プレトリウスは、魔女裁判という暗黒の時代に、人道と正義を貫いた勇気ある人物でした。彼の思想と行動は、現代においても私たちに重要な教訓を与えてくれます。彼の業績は、人権と尊厳を守るための闘いにおいて、不屈の精神と勇気を持つことの重要性を教えてくれます。

参考文献

Hartmut Hegeler: Anton Praetorius, Kämpfer gegen Hexenprozesse und Folter
Hartmut Hegeler und Stefan Wiltschko: Anton Praetorius und das 1. Große Fass von Heidelberg

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