アンドラの歴史

アンドラ公国（Principality of Andorra）は、ヨーロッパ南西部のピレネー山脈東部に位置するミニ国家です。スペインとフランスに挟まれた内陸国であり、その歴史は古く、先史時代から人々の営みが確認されています。

先史時代

アンドラ国内の遺跡からは、紀元前1万年頃にはすでに定住が行われていたことが示唆されています。特に、新石器時代の紀元前6640年頃には、世界遺産にも登録されているマドリウ渓谷への移住が行われました。当時の住民は穀物農業や畜牧業を営み、周辺地域の住民と交易を行っていたと考えられています。

また、オルディノ教区にあるセグデットの墓や、サン・ジュリア・デ・ロリア教区にあるフェイシャ・デル・モロからは、紀元前4900年から紀元前4300年の骨壺墓地文化を示す遺跡が発見されています。青銅器時代には集落の規模が拡大し、アンドラ各地の古代サンクチュアリからは鉄器や古代の硬貨、聖骨箱などが見つかっています。カニーリョ教区のRoc de les Bruixes（「魔女たちの石」）は、この時期の重要なサンクチュアリであり、葬式の儀式や古代文字、壁画などが発見されています。

紀元前7世紀から9世紀まで

紀元前7世紀から紀元前2世紀にかけて、マドリウ渓谷の住民はイベリア文化の影響を受けました。アンドラの地名には、アクイタニア語、バスク語、イベリア語の影響が見られます。紀元前2世紀の歴史家ポリュビオスの著作『歴史』には、ポエニ戦争におけるカルタゴ軍のピレネー山脈越えの際、アンドラの谷に「アンドシンス」と呼ばれる先住民が居住していたという記述があります。

カルタゴ滅亡後は古代ローマ領ヒスパニアに組み込まれ、西ローマ帝国衰退後は西ゴート王国の支配下に入りました。西ゴート王国統治下でキリスト教が広まりました。

9世紀から19世紀まで

アンドラの起源は、803年にフランク王国のシャルルマーニュがピレネー山脈中に設置したスペイン辺境領の一つ、ウルヘル伯領に遡ります。アンドラは、シャルルマーニュが設立した辺境領の中で最後まで存続した唯一の国です。

1133年、ウルヘル伯はウルヘル司教にアンドラの宗主権を譲渡しました。1096年には、司教がカボー家にアンドラの防衛を委ねる代わりに、カボー谷の統治権を与えました。カボー家の権利はカステルボー子爵との婚姻を経て、1208年にはフォワ伯家によって掌握されました。フォワ伯家はアンドラ全体の統治権を狙い、司教と対立しましたが、1278年に両者を対等の共同統治者とする宗主契約が結ばれました。この契約によってアンドラの国境が定められ、現代まで変わっていません。1419年には最初の議会が設置されました。

フォワ伯のガストン4世はナバラ女王レオノールと結婚し、フォワ伯位とアンドラの統治権に加え、ナバラ王位を継承しました。フォワ伯の地位は女系を経てブルボン家に渡り、1589年にアンリ4世がナバラ王兼フランス王となったことで、フランス国王がアンドラの宗主権を受け継ぐことになりました。1607年、アンリ4世はフランス王とウルヘル司教を共同大公とする勅令を出し、アンドラは公国となりました。

1278年の宗主契約以降、フランスとスペインの間で相互監視が働き、アンドラの重要性が低かったため、2国間の紛争はほとんど起こりませんでした。

フランス革命が発生し、1793年にルイ16世が処刑されると、フランス側の共同大公は不在となりました。アンドラ側は革命政権を承認せず、フランス第一共和政政府もアンドラとの関係を断絶しました。1794年、スペインとの間でピレネー戦争を戦っていた共和政政府は、アンドラを併合しようとしましたが、アンドラの代表がフランス軍の司令官を説得し、侵攻を断念させました。1806年、フランス皇帝に即位したナポレオン・ボナパルトとの間で関係は修復され、フランスの元首が再び共同大公となりました。しかし、フランスは半島戦争中の1812年から1813年にかけて、アンドラを含むカタルーニャ地方を併合しました。1814年、国王勅令によりアンドラは独立を回復しました。

20世紀以降

スペイン内戦中、アンドラは中立を維持し、フランス軍が駐屯しました。第二次世界大戦でも中立を保ちましたが、スペイン軍が駐留しました。また、スペインとヴィシー政権の密輸ルートとして利用されました。1944年にはドイツ軍の部隊が領内に侵入しましたが、1945年に退去するまで戦闘行為は発生しませんでした。

第一次世界大戦では、3人のアンドラ人がフランス軍に志願した記録が残っています。ニューヨーク・タイムズの記事では、第一次大戦時にアンドラがドイツに宣戦布告したものの、ヴェルサイユ条約で忘れ去られたため、1958年までドイツと戦争状態にあったと報じられました。しかし、歴史家ペレ・カベロの調査により、アンドラがドイツに宣戦布告したという公的記録はアンドラ・ドイツ両国に存在しないことが判明しました。アンドラ政府も「第一次大戦時にアンドラがドイツに宣戦布告し参戦したというのは間違いである」と発表し、ニューヨーク・タイムズの記事内容を否定しています。

1990年、欧州評議会が「アンドラが欧州連合に加入したければ、その住民と労働者の権利を保証する憲法を採用すべき」という趣旨の勧告を出しました。これを受け、アンドラは1993年に議会民主主義制を採用する憲法を可決しました。これにより、ウルヘル司教とフランス大統領を共同元首とすることが決定されました。1993年には国際連合に、1994年には欧州評議会に加盟しました。

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