アンドレ・リゴー

アンドレ・リゴー：ハイチ革命を彩ったムラート指導者の生涯

アンドレ・リゴー (1761年-1811年) は、ハイチ革命において重要な役割を果たしたムラート（黒人と白人の混血）の軍事指導者です。彼は、後のハイチ独立に貢献するアレクサンドル・ペションやジャン＝ピエール・ボワイエといった人物を育てたことでも知られています。

リゴーは、サン＝ドマング（現在のハイチ）のオカイで、フランス人執行吏と黒人女性の間に生まれました。その後、フランスのボルドーに移り、貴金属加工技術を習得。アメリカ独立戦争時には、サン＝ドマングの自由有色人種からなる義勇軍に参加し、軍事経験を積みました。

ハイチ革命において、リゴーは自由有色人種の権利擁護者として台頭しました。彼はフランス人権宣言を、自由市民の権利平等を保障するものと解釈し、フランス革命政府と協力関係を築きました。1790年代半ばには独自の軍隊を組織し、サン＝ドマング南部と西部で勢力を拡大。1793年には、奴隷制廃止を宣言したフランス革命政府委員エチエンヌ・ポルヴァレから統治権を認められました。

リゴーの権力の基盤は、元奴隷を信用しない有色人種農場主への影響力にありましたが、彼の軍隊には黒人や白人も参加していました。1793年から1798年にかけて、イギリス軍の侵攻を撃退し、プランテーション経済の再建に貢献しました。

しかし、リゴーは、北部の黒人軍を率いるトゥーサン・ルヴェルチュールと対立することになります。トゥーサンの卓越した指導力とフランス革命軍における地位を尊重しつつも、両者の間には緊張関係が存在し、1799年には武力衝突（ナイフ戦争）に発展しました。この対立には、フランス革命政府から派遣されたエドゥヴィル伯が、リゴーをトゥーサンに対抗させるべく支援していたという背景もあります。結果的にリゴーは敗北し、1800年にはフランスへ亡命しました。

1802年、ナポレオンの義弟シャルル・ルクレール率いるフランス遠征軍がサン＝ドマングへ侵攻しました。ルクレールの目的は、1794年の奴隷制廃止によって崩壊した植民地経済を再建し、奴隷制を復活させることでした。リゴーは、この遠征軍に加わってサン＝ドマングへ戻りましたが、遠征は失敗に終わります。3年にわたる戦争の末、ハイチは独立を達成したのです。

遠征の失敗の責任を問われたリゴーは、トゥーサンと共にフランスへ送られ、トゥーサンが亡くなった同じジュー要塞に一時収監されました。投獄されたリゴーは、船上でサーベルを海に投げるという、最後の抵抗を行いました。

1810年12月、リゴーは南部の地域を掌握し、大統領に就任。しかし、彼の支配は長くは続かず、没後、その地域はペションに回復されました。

アンドレ・リゴーの生涯は、ハイチ革命という激動の時代を生き抜いたムラート指導者の複雑な軌跡を示しています。フランス革命との連携、奴隷制廃止への貢献、トゥーサン・ルヴェルチュールとの対立、そして最終的なフランスへの送還など、彼の行動は、人種、権力、そして独立という複雑なテーマを反映したものでした。彼の生涯は、ハイチ革命史を理解する上で、欠かすことのできない重要な要素となっています。

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