アンドロメダ (ルーベンス)

ピーテル・パウル・ルーベンスの「アンドロメダ」

この絵画は、バロック期のフランドルの巨匠ピーテル・パウル・ルーベンスが1638年から1639年にかけて制作した油彩作品です。オーク板に描かれたこの作品は、オウィディウスの『変身物語』に登場する英雄ペルセウスとアンドロメダの物語を主題としています。

ルーベンスの遺産として長男アルベルト・ルーベンスに相続された後、1884-1885年にブレナム宮殿のジョージ・スペンサー＝チャーチル（第8代マールバラ公）のコレクションを経て、現在はベルリン絵画館に所蔵されています。

物語の背景

オウィディウスの『変身物語』によれば、エチオピアの女王カッシオペイアが自身の美貌をネーレーイスたちよりも優れていると宣言したため、海神ポセイドンの怒りを買い、エチオピアに怪物ケートスが送り込まれました。ポセイドンの怒りを鎮めるため、美しい王女アンドロメダが生贄として捧げられることになりました。しかし、英雄ペルセウスが現れ、怪物を退治しアンドロメダを救出します。

絵画の特徴

ルーベンスはこの主題を何度か描いていますが、他の作品ではアンドロメダとペルセウスが均等に描かれています。しかし、本作では、アンドロメダが前景いっぱいに描かれ、まるで「もしそよ風がこの乙女の髪をなびかせなかったら、また、あつい涙がその眼にこぼれていなかったら、かれ（ペルセウス）はそれを大理石の像かとおもったことであろう」というオウィディウスの描写をそのまま具現化したかのようです。

正面を向いたアンドロメダは薄いベールを纏うのみで、海の怪物に無防備な姿で立っています。彼女の視線は恐怖に満ちて空を仰ぎ、両手は右側の岩に縛られています。足元には赤い衣服が散らばっています。海中から迫る怪物と、空を駆けるペガサスに乗ったペルセウスが、アンドロメダの右側から近づいています。松明を持つキューピッドがアンドロメダの頭上を飛び、ペルセウスを指し示しています。

この作品では、アンドロメダが明確な主役であり、他の要素は二義的な存在として描かれています。ルーベンスは、慎重にモデリングされたアンドロメダの姿と、大まかにスケッチされたキューピッド、ペルセウス、怪物を対比させています。アンドロメダをクローズアップで描くことで、彼女の絶望的な状況の緊迫感を強調すると同時に、女性の豊かな裸身の美しさを際立たせています。アンドロメダのポーズは、ロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されているルーベンスの作品「パリスの審判」に描かれている、左端で衣装を脱ぐミネルヴァと同じものです。また、アンドロメダの顔には、ルーベンスの2番目の妻であるエレーヌ・フールマンの面影が反映されています。

作品の解釈

ルーベンスの「アンドロメダ」は、古典的な神話の物語をドラマチックに描いた作品でありながら、アンドロメダの人間的な感情や美しさを強調しています。ルーベンスの熟練した筆致は、アンドロメダの肌の質感や、薄いベールの繊細さを際立たせており、バロック絵画の特徴である躍動感と官能的な美しさが融合しています。この絵画は、物語の緊張感と、ルーベンス自身の芸術的な技巧が見事に組み合わさった傑作といえるでしょう。

ギャラリー

（ここに画像へのリンクや説明があれば記述）

参考文献

山崎正和・高橋裕子『カンヴァス世界の大画家13 ルーベンス』、中央公論社、1982年刊行 ISBN 978-4-12-401903-2
国立プラド美術館『プラド美術館ガイドブック』国立プラド美術館、2009年。ISBN 978-84-8480-189-4。

外部リンク

* ベルリン絵画館公式サイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『アンドロメダ』（ドイツ語の英訳）

もう一度検索