アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ

アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ：現代社会への痛烈な風刺とブラックユーモア

2021年、ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞したルーマニア映画『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』。この作品は、ルーマニアの中学校教師エミが夫との性行為を撮影した動画がインターネット上に流出してしまうことから始まる騒動を描いています。一見、センセーショナルな題材ですが、実際は現代社会の様々な問題をブラックユーモアを交えて鋭く風刺した、奥深い作品となっています。

動画流出と保護者の反発

個人的な動画が流出したことで、エミは保護者から激しいバッシングを受けます。保護者たちは緊急集会を開き、エミの処遇について激しく議論を戦わせます。この集会は、まるで裁判のような様相を呈し、様々な価値観や思惑がぶつかり合う修羅場と化します。

コロナ禍と社会風刺

映画は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行真っ只中に撮影されました。そのため、登場人物たちは皆マスクを着用しており、コロナ禍における社会の様子も克明に描写されています。マスク越しの表情や、社会的な距離、感染対策…日常の光景の中に、現代社会の閉塞感や矛盾が巧みに織り込まれています。

三部構成による社会への問いかけ

映画は大きく三つの章に分けられています。

第1章：エミの日常と社会の断片: エミが学校へ向かう道中、様々な出来事が淡々と映し出されます。卑猥な言葉を吐く老婆、スーパーでのトラブル、街角の看板やポスター…。一見些細な出来事にも、資本主義、民主主義、社会の不平等といった問題が潜んでいることを示唆しています。
第2章：隠喩とモンタージュ: 歴史、政治、経済、イデオロギーなど、多岐にわたる事象がモンタージュで提示されます。哲学者や文化人の言葉が引用され、社会の不条理や矛盾が風刺的に表現されています。この章は、映画全体のテーマをより深く理解するために不可欠なパートと言えるでしょう。
* 第3章：保護者たちの審判と三つの結末: 保護者たちの緊急集会で、エミは様々な質問攻めにあいます。反ユダヤ主義、ミソジニスト、歴史修正主義など、多様な価値観を持つ人々の主張がぶつかり合い、白熱した議論が展開されます。そして、エミの留任か解雇かを問う採決が行われ、三つの異なるエンディングが提示されます。留任、解雇、そして、予想外のファンタスティックな結末…どのエンディングも、現代社会の複雑さを反映した、考えさせられるものとなっています。

監督ラドゥ・ジューデの意図

監督のラドゥ・ジューデは、『アーフェリム！』でも高い評価を得ており、本作でもその才能を遺憾なく発揮しています。皮肉とユーモアを巧みに織り交ぜながら、現代社会が抱える問題を浮き彫りにし、観客に問いかけます。検閲版についても、監督は当初反対していたものの、日本の観客にもより深く理解してもらえるようにと、最終的には受け入れたそうです。

高い評価と日本での公開

Rotten Tomatoesでの支持率は94％と高く評価されており、そのクオリティの高さがうかがえます。日本では2022年4月23日から一般公開され、話題を呼びました。一部シーンが編集された「監督〈自己検閲〉版」として公開されたことからも、日本における公開の難しさや、文化的な違いなども考えさせられます。

『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』は、単なる性的なスキャンダルを描いた映画ではありません。コロナ禍における社会の矛盾、人間の愚かさ、そして、希望といった様々な要素が複雑に絡み合い、観る者の心に深く刻まれる作品です。ブラックユーモアと社会風刺が絶妙に融合した、忘れられない映画体験となるでしょう。

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