アンリ・デュパルク

アンリ・デュパルク（Eugène Marie Henri Fouques Duparc, 1848年 1月21日 – 1933年2月12日）は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの作曲家です。ロマン派音楽の終末期に位置づけられ、特に声楽曲の分野で重要な足跡を残しました。自身の創作の大部分を破棄するという稀有な選択をしたため、現存する作品数は極めて少ないものの、残されたわずかな楽曲、特に歌曲はフランス歌曲史において不動の地位を占めています。

生涯

パリに生まれたデュパルクは、ヴォージラール地区にあったイエズス会の学校でセザール・フランクにピアノと作曲を学びました。フランクの最初の作曲の弟子の一人であり、師からは多大な影響を受けました。普仏戦争従軍を経て、1871年にはスコットランド出身のエレン・マクスウィニーと結婚します。同年にはカミーユ・サン＝サーンスやロマン・ビュシーヌと共に国民音楽協会を設立するなど、若くして精力的な活動を展開し、ヴァンサン・ダンディをはじめとする同時代の音楽家たちとも親交を深めました。

しかし、1885年、37歳という若さで重度の神経疾患（診断名は神経衰弱）により作曲活動を突然停止せざるを得なくなります。この病により、彼は長年にわたり創作の筆を置くことになりました。その後は家族と共に静かに過ごし、絵画制作に親しむなどして日々を送りました。20世紀に入ると視力の衰えにも苦しみますが、管弦楽作品の編曲など、細々とした音楽への関わりは続きました。確認できる最後の創作活動は、1911年に行われた管弦楽曲『星たちへ』の改訂です。

晩年は主にスイスのレマン湖畔にあるラ・トゥール・ドゥ・ペイルスで過ごしました。1933年、フランス南西部のモン＝ド＝マルサンで85年の生涯を閉じました。彼の墓はパリのペール・ラシェーズ墓地にあります。また、パリ17区には彼にちなんで名付けられた場所があるなど、今なおその功績が記憶されています。フランクは、作曲活動を終えた愛弟子であるデュパルクに、自身の代表作の一つである『交響曲ニ短調』を献呈しています。

作品

デュパルクが作曲した楽曲は、約500曲に上るとも言われますが、彼はその大半、特に多くの自筆譜を自らの手で破棄しました。このため、現在演奏されるのは40曲に満たない作品のみです。破棄された作品の中には、未完に終わったオペラ『ルサルカ』などもあり、親友に宛てた手紙の中でその無念を語っています。

彼の現存作品の中で最も重要な位置を占めるのが歌曲（メロディ）です。現在知られているのは17曲で、シャルル・ボードレール、テオフィル・ゴーティエ、ルコント・ド・リールといった高名な詩人たちの詩に曲が付けられています。これらの歌曲は、繊細で美しい叙情表現と、リヒャルト・ヴァーグナーの影響を受けた劇的な表現力が見事に融合しており、フランス歌曲の最高傑作の一つと見なされています。

特に有名な歌曲としては、ボードレールの詩による「旅への誘い」（L'invitation au voyage）、ジャン・ラオールの詩による「悲しき歌」（Chanson triste）、ボードレールの詩による「前世」（La Vie antérieure）、ルコント・ド・リールの詩による「フィディレ」（Phidylé）などがあります。わずかな作品数ではありますが、その質の高さと音楽的な深さは、後の世代の作曲家たちにも影響を与えました。

歌曲のほかには、管弦楽曲、ピアノ曲、室内楽曲が少数残されています。管弦楽曲としては交響詩『レノール』や夜想詩曲『星たちへ』、ピアノ曲としては「夢」（Rêveries）や「風に舞う木の葉」（Feuilles volantes）などがあります。

創作期間は短かったものの、アンリ・デュパルクはフランス音楽史において、特に歌曲というジャンルで忘れられない光彩を放つ存在として、今もなお多くの音楽愛好家に親しまれています。

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