アンリ・ドゥ・リュバック

アンリ・ドゥ・リュバック

アンリ・ドゥ・リュバック（Henri de Lubac, 1896年2月20日 - 1991年9月4日）は、20世紀カトリック教会において最も重要な神学者の一人と見なされており、晩年には枢機卿の位にまで昇りました。フランスに生まれた彼は、激動の時代を生き抜きながら、深い信仰と学術的な探求を通じて、現代カトリック思想の形成に多大な貢献をしました。

生涯と背景

1896年にフランス北部の町カンブレーで生を受けたリュバックは、若くしてキリスト教への献身を選び、1913年にイエズス会に入会しました。この決断が、その後の彼の人生と学術研究の道筋を決定づけることとなります。

彼の生涯は、二度の世界大戦という壮絶な出来事と深く結びついています。1917年には第一次世界大戦に兵士として参加し、戦場の現実を体験しました。さらに、第二次世界大戦中には、ドイツ占領下の困難な状況の中で対独抵抗運動に関わりました。これらの厳しい経験は、彼の人間理解や神学思想に深い影響を与えたと考えられます。

学問と異文化への関心

リュバックの学問的探求は広範囲に及び、特に古代キリスト教の教父たちの思想や中世の著作に対する深い研究は、彼の神学の基盤となりました。同時に、彼はキリスト教の枠を超えた異文化、とりわけ仏教に対して強い関心を持ちました。仏教の研究から得られた洞察は、彼のキリスト教神学に対する理解を豊かなものにし、その影響は自身の著作にも反映されています。これは、宗教間の対話の可能性を示すものとしても注目されます。

第2バチカン公会議における役割

20世紀のカトリック教会に刷新をもたらした第2バチカン公会議（1962年-1965年）において、リュバックは主要な神学的顧問として、その議論に大きく貢献しました。彼は、現代教会が直面する課題に対し、教会本来の活力と精神を回復するためには、原始キリスト教や古代教会の豊かな伝統と思想に立ち返ることが不可欠であると強く主張しました。この「源泉への回帰」（ressourcement）という彼の思想は、公会議の文書作成やその後の教会改革に決定的な影響を与え、現代カトリック神学の重要な流れの一つを形成しました。

晩年と栄誉

長年にわたるその卓越した神学的業績と、教会への揺るぎない忠誠は高く評価されました。1983年には、当時の教皇ヨハネ・パウロ2世によって枢機卿に任命され、その功績が公式に認められました。

アンリ・ドゥ・リュバックは、1991年9月4日に95歳でその生涯を終えました。彼の残した膨大な著作と思想は、今なお世界中の神学者や研究者によって深く研究されており、現代カトリック神学における彼の影響力は計り知れません。

主な著作

リュバックの代表的な著作には以下のようなものがあります。

『Catholicisme, les aspects sociaux du dogme』（カトリシズム、教義の社会的側面、1938年）
『Sources chrétiennes』（キリスト教の源泉、共著、1943年）- 古代教父文献の叢書
『Surnaturel. Études historiques』（超自然、史的研究、1946年）
『Le Fondement théologique des missions』（宣教の神学的基礎、1946年）
『Aspects du bouddhisme』 第1巻（仏教の諸相、1951年）
『Amida』（阿弥陀、『Aspects du bouddhisme』の第2巻、1955年）

これらの著作は、教会の本質、自然と超自然の関係、異文化理解、宣教の神学など、多岐にわたるテーマを扱い、彼の深い学識と洞察力を示しています。

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