アンリ・モンタン・ベルトン

生涯と音楽教育

フランスのヴァイオリニスト、作曲家、そして優れた音楽教師として知られるアンリ・モンタン・ベルトン（Henri Montan Berton）は、1767年 9月17日にパリで生を受け、1844年 4月22日に同地で没しました。彼は、当時の著名な作曲家であったピエール・モンタン・ベルトンの息子として、早くから音楽に触れる機会を得ました。

幼少より本格的な音楽教育を受けたベルトンは、その才能を早期に開花させました。1782年には、わずか15歳という若さでパリのオペラ舞台にヴァイオリニストとしてデビューを果たし、演奏家としてのキャリアを開始しています。彼は当初、ジャン＝バティスト・レイから手ほどきを受け、その後アントニオ・サッキーニのもとで研鑽を積みました。特に、イタリア出身のサッキーニからの教えはベルトンに深い影響を与え、彼はオペラ作曲の道へと強く惹かれていきました。

オペラ 作曲家としての開花

サッキーニのもとで培ったオペラへの情熱を胸に、ベルトンは作曲家としての道を本格的に歩み始めました。やがて彼は、主にオペラ作曲家として広くその名を知られるようになります。手掛けた作品の多くは、当時フランス音楽界の中心的な存在であったパリのオペラ・コミック座で初演の機会を得ました。

フランス革命期の反聖職権主義的な機運に乗じ、ベルトンは1790年 8月23日に発表した『Les rigueurs du cloître（回廊の厳しさ）』で、作曲家としての最初の大きな成功を掴みました。このオペラは、堕落した修道女によって墓に葬られそうになった若い尼僧が劇的に救出されるという物語であり、こうした困難な状況から主人公が救われるというプロットが特徴です。このため、『救済のオペラ』と呼ばれるジャンルの先駆けの一つとみなされています。

主要作品と評価

『Les rigueurs du cloître』での成功を皮切りに、ベルトンは次々と注目すべき作品を発表しました。1799年には『Montano et Stéphanie』（4月15日初演）と『Le délire（狂乱）』（12月7日初演）という2つのオペラが上演され、いずれも好評を博しました。1804年 1月26日初演の『La Romance（ロマンス）』も彼の代表作の一つに数えられます。

特に、1803年 9月3日に初演された『Aline, reine de Golconde（ゴルコンダの女王アリーヌ）』は、ベルトンの初期における最大の成功作となりました。この作品はフランス国内で絶賛されただけでなく、国外でも盛んに上演され、彼の名声を確立しました。

晩年には悲劇の分野にも挑戦し、1823年 6月11日に当時のパリ・オペラ座（サル・ル・ペルティエ）で初演された悲劇『Virginie（ヴィルジニー）』は、合計39回の上演を記録するなど、一定の成功を収めました。

しかし、ベルトンの生涯で最も圧倒的な成功を収め、その名を歴史に深く刻んだのは、1824年 12月22日にフェドー劇場のオペラ・コミック座で初演された『Les deux mousqetaires（二人の銃士）』でした。この作品は当時の聴衆から絶大な人気を獲得し、その後も毎年繰り返し上演されました。最終的には計117回という驚異的な上演回数を記録し、ベルトンのキャリアにおける最高の成功作となりました。

教育者・管理職としての貢献

ベルトンは作曲家としてだけでなく、劇場運営や音楽教育の分野でも重要な役割を果たしました。1807年から1810年までオデオン座の音楽監督を務め、劇場の音楽部門を統括しました。続いて1810年から1815年には、より規模の大きなオペラ座で合唱指導者として活躍し、合唱水準の向上に貢献しました。

教育者としては、フランス音楽界の重鎮であったエティエンヌ＝ニコラ・メユールが1817年に死去した後、その重要なポストを引き継ぎました。1818年 1月1日付でパリ音楽院の作曲講座教授に就任したベルトンは、その後1844年に死去するその日まで、実に四半世紀以上にわたり同職を務め上げました。この間、数多くの若い世代の音楽家を育成し、フランス音楽の発展に多大な貢献をしました。

家族と音楽の継承

父ピエールからアンリへと受け継がれた音楽の才能は、さらに彼の息子であるアンリ・フランソワ・ベルトン（Henri François Berton, 1784年 5月3日 - 1832年 7月19日）にも継承されました。彼もまた作曲家として活動し、その作品の一部は父と同様にオペラ・コミック座で上演されています。

まとめ

アンリ・モンタン・ベルトンは、革命期から王政復古期にかけての激動の時代を生きたフランスの音楽家です。ヴァイオリニストとしての早期デビュー、オペラ作曲家としての華々しい成功、特に「救済のオペラ」の先駆けとされる作品や、驚異的な人気を博した『二人の銃士』など、劇場音楽の発展に貢献しました。また、オデオン座やオペラ座での管理職、そしてパリ音楽院での長きにわたる教授活動を通じて、次世代の音楽家育成にも尽力しました。彼は単なる作曲家にとどまらず、演奏、教育、運営と多岐にわたる分野でフランス音楽界の発展に貢献した重要な人物です。

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