アンリ4世の神格化とマリー・ド・メディシスの摂政宣言

ピーテル・パウル・ルーベンスによるこの絵画は、1623年から1625年にかけて制作され、フランス王妃マリー・ド・メディシスによって委嘱された「マリー・ド・メディシスの生涯」連作の一部です。現在はパリのルーヴル美術館に所蔵されています。

歴史的背景

マリー・ド・メディシスは、リュクサンブール宮殿を飾る目的で、自身の生涯を描いた24枚の連作をルーベンスに依頼しました。この委嘱には、彼女の統治に対する民衆の不満を払拭しようとする意図がありました。イタリア出身である彼女は、フランス人から統治者としての適格性を疑問視されていたのです。彼女は1600年にアンリ4世と結婚しましたが、アンリ4世は1610年に暗殺され、この連作が委嘱されるよりもずっと前のことでした。

作品の構成と意味

『アンリ4世の神格化とマリー・ド・メディシスの摂政宣言』は、連作の中心的な作品として位置づけられています。この絵画は、マリー・ド・メディシスの人生における転換点を示しており、伝記的な観点からも重要な意味を持っています。

1610年5月14日、アンリ4世は暗殺され、幼いルイ13世が王位を継承し、マリーが摂政となりました。この出来事の前日、マリーはサン＝ドニ大聖堂で王妃として戴冠式を挙げており、アンリ4世は万が一に備え、マリーを摂政に指名していたのです。

ルーベンスは、画面を二つの部分に分け、左側にアンリ4世、右側にマリー・ド・メディシスを描いています。画面全体は、渦巻き状の動線によって結ばれ、バロック的なダイナミックな構図となっています。

アンリ4世の昇天

左側には、月桂冠を被ったアンリ4世が、ユピテルとサトゥルヌスによって天上に導かれる様子が描かれています。ヘラクレス、メルクリウス、ヴィーナスといった神々が彼を迎えています。アンリ4世は、殉教者のような姿で描かれ、その死を悼む女神ベローナと「勝利」の擬人像が、悲しみに暮れています。画面左下には、アンリ4世を暗殺した者を象徴する蛇が、矢に射抜かれて炎を吐いています。ドラクロワは、ルーベンスの女神ベローナのポーズに影響を受け、『民衆を導く自由の女神』の女神を描いたと言われています。

マリー・ド・メディシスの摂政就任

右側には、金のユリ紋が散りばめられた青いマントを纏った「フランス」の擬人像が、王権の象徴である宝珠をマリーに差し出しています。また、「神の摂理」が統治権を表す舵を彼女に渡しています。蛇を持つ「思慮」とミネルヴァが、マリーにそれらの受諾を勧めています。マリーの側近の貴族たちは、すでに彼女に敬意を払っています。この場面は、マリーがアンリ4世の正当な後継者であることを示しており、ルイ13世ではなくマリーが王位を継承するという考えが表現されています。

結論

この絵画は、アンリ4世の死とマリー・ド・メディシスの摂政就任という、フランスの歴史における重要な瞬間を捉えています。ルーベンスの卓越した描写力と、バロック様式の特徴であるダイナミックな構図が、作品に力強い印象を与えています。

参考文献

ヴァンサン・ポマレッド監修・解説『ルーヴル美術館収蔵絵画のすべて』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2011年刊行、ISBN 978-4-7993-1048-9
坂本満責任編集『NHKルーブル美術館V バロックの光と影』、日本放送出版協会、1986年刊行　ISBN 4-14-008425-1

外部リンク

* ルーヴル美術館公式サイト、ピーテル・パウル・ルーベンス『アンリ4世の神格化とマリー・ド・メディシスの摂政宣言』 (フランス語)

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