アン女王の復讐号

アン女王の復讐号（英語: Queen Anne's Revenge）は、18世紀初頭の海賊黄金時代において、悪名高き海賊黒髭（エドワード・ティーチ）の旗艦として用いられたことで知られる帆船です。黒髭がこの船を使用した期間は一年に満たなかったものの、彼の権威と恐怖を象徴する存在として歴史に名を刻んでいます。

船の歩み：建造から奴隷貿易船へ

この船の起源は、1710年にイングランドで建造されたおよそ300トン級のフリゲート船「コンコルド」に遡ります。建造から一年も経たずにフランスによって捕獲され、その名を「ラ・コンコルド」と改められました。フランス船として大規模な改造を受け、奴隷輸送能力を高められた「ラ・コンコルド」は、大西洋奴隷貿易に従事することとなります。

黒髭による鹵獲と武装強化

1717年11月28日、「ラ・コンコルド」は奴隷輸送のためカリブ海を航行中、黒髭率いる海賊艦隊によって鹵獲されました。黒髭が当時指揮していた他のどの船よりも大型であったことから、彼はこの船を自身の旗艦とすることを決定します。

捕獲された船は、海賊行為に適した強力な戦闘艦へと変貌を遂げました。元々備わっていた14門の砲に加え、舷側に多数の砲門が増設され、合計26門以上もの大砲が搭載されました。さらに、船尾楼甲板、船首楼、そして舷側に沿って、片舷あたり少なくとも4門の旋回砲も新たに装備されるという、大規模な武装強化が施されました。この改造を経て、船は「クイーン・アンズ・リベンジ（アン女王の復讐）」と命名されました。

命名の由来

船名の由来については明確ではありませんが、いくつかの説が存在します。一つは、黒髭がイギリス海軍時代に従軍したスペイン継承戦争が、アメリカでは「アン女王戦争」として知られていたことから、この戦争にちなんで名付けられたというものです。また、当時のイギリス女王アンへの何らかの思いや、特定の勢力に対する「復讐」の意が込められていたとする見方もあります。

海賊船としての活動と最期

クイーン・アンズ・リベンジは、黒髭の旗艦として西アフリカ沿岸からカリブ海までを広く活動し、多くの商船や船舶を襲撃しました。中でも特筆されるのは、1718年5月にサウスカロライナの主要港であるチャールストン港を約一週間にわたって海上封鎖し、出入港する船から略奪を繰り返した出来事です。

チャールストンでの活動後、黒髭は当局からの恩赦の提案を退け、艦隊を率いてノースカロライナのボーフォート入り江へと移動します。しかし、浅瀬の多かった入り江で、アン女王の復讐号は座礁して動けなくなってしまいました。他の船を用いて引き出そうと試みましたが、作業は失敗に終わり、逆に艦隊の一隻である「アドベンチャー号」までもが座礁する結果となりました。

事態の悪化を受け、黒髭は保有していた小艦隊の大部分を解散することを決めます。アン女王の復讐号に積まれていた積荷や貴重品は、より小型の船、特に「リベンジ号」などに移載され、船体そのものは入り江に放棄されることとなりました。こうして、短いながらも激しい生涯を送ったクイーン・アンズ・リベンジは、海中に姿を消したのです。

現代の発見と文化財としての保護

約3世紀後の1996年、ノースカロライナ州ボーフォート沖の海底で、沈没船として発見されました。その後の考古学的な調査により、この船が黒髭の旗艦であった可能性が非常に高いことが判明し、世界的な注目を集めました。

沈没船の引き揚げに向けた作業は2011年から開始されましたが、船体が大規模であることや海底の状態などから困難を極め、当初計画されていた船体全体の引き揚げには至っていません。しかし、2014年までに船からは多数の遺物、特に大砲の一部や碇などが引き揚げられています。

歴史的に極めて重要な遺産であることから、アン女王の復讐号の沈没船は厳重に保護されています。2004年にはノースカロライナ州の国家歴史登録財に登録されました（登録番号: No.04000148）。船体は現在、ノースカロライナ州とモアヘッドシティの共同所有となっており、船が沈んでいる難破地点も、ノースカロライナ州によって保護区域（指定番号: No.31CR314）に指定され、今後の調査や保護が続けられています。

クイーン・アンズ・リベンジは、黒髭という伝説的な海賊とともに、海賊黄金時代のドラマを現代に伝える貴重な存在となっています。

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