アヴァール

アヴァール：中央ユーラシアからヨーロッパへ進出した謎多き遊牧民族

アヴァールは、5世紀から9世紀にかけて、中央アジアおよび中央・東ヨーロッパを舞台に活躍した遊牧民族です。その勢力は、現在のハンガリーを拠点とする一大国家を築き上げ、東ローマ帝国やフランク王国といった強大な勢力と接触し、スラヴ諸民族の形成にも大きな影響を与えました。しかし、アヴァール自身の歴史記録は乏しく、その起源や詳細な歴史は謎に包まれています。

不明な起源

アヴァール人の起源については、複数の説が提唱されています。有力な説の一つは、中央アジアの遊牧民族である柔然が、突厥に敗れた後、西方に移動してアヴァールとなったとするものです。この説は、柔然とアヴァールの君主号が「可汗」であったことや、両者の文化・風習に共通点が見られることから支持されています。他にも、柔然とエフタルという別の遊牧民族が融合してアヴァールが生まれたとする説や、アヴァールが独自に発達した民族であるとする説など、様々な仮説が存在しています。言語的には、アヴァール語はモンゴル系言語であるとの見解が有力です。

東ローマ帝国との複雑な関係

アヴァールが歴史に登場するのは6世紀半ばです。突厥の圧力から逃れたアヴァールは、東ローマ帝国と同盟関係を結び、ドナウ川流域に進出しました。彼らは周辺の諸民族を服属させ、勢力を拡大していきます。しかし、東ローマ帝国とは貢納や領土問題をめぐってしばしば衝突し、同盟と敵対を繰り返す複雑な関係を築きました。アヴァールは、東ローマ帝国領へのスラヴ人の侵入を抑えるために利用される一方、自らは帝国領を襲撃し、略奪を行うこともありました。626年のコンスタンティノープル包囲戦では、アヴァールはサーサーン朝ペルシアと協力して東ローマ帝国を攻撃しますが、失敗に終わります。

スラヴ諸民族との関わり

アヴァールの歴史において、スラヴ諸民族との関わりは非常に重要です。アヴァールは、ドナウ川流域に定住していたスラヴ諸部族を支配下に置こうとしますが、スラヴ諸部族もアヴァール支配からの独立を目指して抵抗を続けました。7世紀には、サモ王国という最初のスラヴ国家が成立し、アヴァール支配からの脱却に成功しました。しかし、サモ王国はその後アヴァールによって滅ぼされます。アヴァールとスラヴ諸民族の関係は、支配と抵抗、そして徐々に進む融合という複雑な様相を呈していました。遺伝子分析の結果も、アヴァール人とスラヴ人の混合を示唆しています。

アヴァール可汗国の衰退と滅亡

8世紀に入ると、アヴァール可汗国の勢力は衰え始めます。フランク王国、ブルガール、そしてスラヴ諸民族からの圧力を受け、8世紀後半から9世紀にかけてアヴァール可汗国は徐々に勢力を失い、最終的に滅亡しました。

考古学的知見

ハンガリーを中心とした地域からは、アヴァール時代の多くの遺物が発見されています。馬具、武器、甲冑、装飾品など、出土品の特徴は、東アジア、特に柔然や突厥のそれと類似しており、アヴァール人の起源に関する議論に新たな知見を与えています。アヴァール人は、高度な金属加工技術を持っており、その技術は周辺地域に大きな影響を与えたと考えられています。墳墓からの出土品は、遊牧民特有の生活様式を反映しており、彼らの社会構造や文化を知る上で貴重な資料となっています。

遺伝学的分析

近年、アヴァール人の遺骨を用いた遺伝子分析が進められています。その結果、初期のアヴァール人の多くは東アジア起源の遺伝子を持っており、柔然＝アヴァール説を支持する結果となっています。しかし、時代が下るにつれて、ヨーロッパ起源の遺伝子の割合が増加していることが確認されており、アヴァール人の遺伝的多様性と周辺民族との交流を示唆しています。

結論

アヴァールは、その起源から滅亡まで、多くの謎に包まれた民族です。しかし、考古学的、遺伝学的分析などの研究成果によって、少しずつその実態が明らかになりつつあります。アヴァールは、中央ユーラシアとヨーロッパを繋ぐ重要な役割を果たした民族であり、その歴史は、ユーラシア大陸の複雑な民族移動と文化交流を理解する上で欠かせないものです。今後の研究によって、アヴァールに関するさらなる知見が得られることが期待されます。

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