エフタル

エフタル：中央アジアの謎多き遊牧帝国

エフタル（Hephthalite）は、5世紀から6世紀にかけて中央アジアに存在した遊牧国家です。多様な史料で異なる名称で記録され、インドでは「フーナ」、ペルシアでは「白いフン」とも呼ばれました。中国史書では「嚈噠」などと表記されています。その起源や民族系統は未だ謎に包まれていますが、中央アジア史において重要な役割を果たしたことは確かです。

エフタルの隆盛と支配

5世紀中頃、エフタルは現在のアフガニスタン北東部で勃興しました。周辺のクシャーナ朝後継勢力を滅ぼし、トハリスタン（バクトリア）やガンダーラを支配下に置きました。これにより、サーサーン朝と国境を接するようになり、その王位継承争いに介入するほど勢力を拡大。484年にはサーサーン朝軍を撃退し、その強大さを示しました。

さらに、エフタルはインドへ侵入し、グプタ朝を脅かしました。貨幣学では、この集団は「アルハン」と呼ばれています。6世紀前半には、中央アジアの大部分を制覇する大帝国へと発展し、東西交易路を掌握して繁栄を極めました。その支配領域は、東はタリム盆地、北はテュルク系の鉄勒と接し、南はインド亜大陸北西部にまで及んでいました。

衰退と滅亡

しかし、6世紀中頃になると、鉄勒を統合した突厥が台頭し、エフタルの勢力を脅かしました。558年、突厥とサーサーン朝の挟撃を受け、約10年後に滅亡しました。エフタルの支配地域は、当初突厥とサーサーン朝の間で分割されましたが、最終的には突厥の支配下となり、突厥は中央ユーラシアを覆う大帝国へと成長しました。

名称と民族系統

エフタルの名称は史料によって異なります。『新唐書』には、その王姓が国名になったと記されています。インドやペルシアでは、「白いフン」を意味する言葉で呼ばれていました。近年では、貨幣学において、エフタルを「アルハン」と「（正統）エフタル」に分けて考えるべきという説も提唱されています。

エフタルの起源については、中国史書では「金山（アルタイ山脈）から南下」したとされ、西方史料では「バダクシャン（パミール高原とヒンドゥークシュ山脈の間）の遊牧民」とされています。その民族系統は諸説あり、イラン系、テュルク系とする説がある他、「嚈噠」とエフタルを別の民族とする説も存在します。

歴史の詳細

起源と初期の侵入: 410年頃からトハリスタン、ガンダーラに侵入。425年にはサーサーン朝にも侵入したが、迎撃され撤退。
グプタ朝への侵入: アルハンはグプタ朝に侵入し、一時的に衰退させた。スカンダグプタによって撃退されるも、その影響は大きかった。
サーサーン朝との抗争: ペーローズ1世の裏切りにより戦争が勃発。エフタルは勝利し、ホラーサーンを占領。484年にはペーローズ1世を戦死させた。
高車との戦い: 高車に侵攻し、王族を殺害、捕虜にした。
トラマーナの台頭: 5世紀末、アルハンのトラマーナが「王の中の王」を名乗り、グプタ朝に侵入。
高車への再侵攻: 508年、高車を再侵攻し、傀儡政権を樹立。
ミヒラクラ王: トラマーナの子ミヒラクラの時代に、大規模な仏教弾圧が行われた。
北魏への朝貢: 5世紀後半から6世紀前半にかけて、北魏に朝貢。
ヤショーダルマンによる撃退: 533年頃、マールワー王ヤショーダルマンによってミヒラクラが破られる。
西魏への朝貢: 546年と552年に、西魏に遣使を派遣。
滅亡: 558年、突厥とサーサーン朝の連合軍によってブハラの戦いで大敗、滅亡へと向かう。

エフタルの政治体制と習俗

中国の史書には、エフタルの政治体制や習俗に関する記述があります。王と王妃の姿、またその生活様式、習慣について言及されています。プロコピオスは、エフタルを「フンの一派」としながらも、遊牧民とは異なる生活様式を持っていたと述べています。

言語系統

エフタルの言語系統は不明な点が多く、様々な説が提唱されています。中国史書では「大月氏」や「高車」との関係が指摘されていますが、イラン系やテュルク系とする説も存在します。また、近年では、エフタルの上流階級はバクトリア語を使用していたという説も提唱されています。

アルハン・フーナの諸王

銅板銘文によれば、以下のアルハン・フン王が確認されています。

ヒーンギーラ(khīṅgīla)
トラマーナ(Toramāṇe)
ミヒラクラ（Mihirakula）
メハマ(mehama)
ジャヴーカ(javūkha)

これらの王たちは地域を分けて統治していたと考えられています。

まとめ

エフタルは、中央アジア史において重要な役割を果たした遊牧国家です。その強大な軍事力は周辺諸国を脅かし、東西交易路を掌握することで繁栄を極めました。その起源や民族系統については未解明な点も多いですが、その歴史は現代の研究者たちの関心を集め続けています。

参考資料

『魏書』
『周書』
『隋書』
『北史』
『旧唐書』
『新唐書』
内田吟風『北アジア史研究 鮮卑柔然突厥篇』
護雅夫・岡田英弘編『民族の世界史4 中央ユーラシアの世界』
岩村忍『文明の十字路＝中央アジアの歴史』
ヴィレム・フォーヘルサング『アフガニスタンの歴史と文化』
宮本亮一「クシャーンからエフタルへ：中央アジアから南アジアへの人間集団の移動」
影山悦子『ユーラシア東部における佩刀方法の変化について :エフタルの中央アジア支配の影響』
山田明爾『後期グブタ朝の分裂について』
小谷仲男「世紀における西北インドのフーナ族」

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