アヴィニョン歴史地区

アヴィニョン歴史地区：中世の輝きを今に伝えるフランスの至宝

南フランスのアヴィニョンに広がる「アヴィニョン歴史地区」は、ユネスコ世界遺産に登録された歴史的建造物群です。14世紀、教皇庁が置かれたこの地は、ヨーロッパの中世史において重要な役割を担い、その栄華を物語る数々の建造物が、現在も人々を魅了し続けています。

教皇宮殿：中世ヨーロッパ最大級のゴシック建築

アヴィニョン歴史地区の象徴ともいえる教皇宮殿は、アヴィニョン捕囚時代（1309年～1377年）に教皇の宮殿として建造されました。ローヌ川を見下ろす北縁に位置するこの宮殿は、旧宮殿と新宮殿からなり、その広大な規模は、当時の教皇の富と権力を象徴しています。

旧宮殿は、厳格な教皇ベネディクトゥス12世の命により、重厚な防壁と回廊を備えた堅牢な建築となりました。一方、新宮殿はクレメンス6世、インノケンティウス6世、ウルバヌス5世の時代にかけて増築され、長さ52メートル、高さ20メートルにも及ぶ大礼拝室が造られました。クレメンス6世は芸術を愛し、イタリアから著名な芸術家を招き、宮殿の内装を豪華なフレスコ画、タペストリー、絵画、彫刻で飾らせました。

フランス革命期の略奪によって内装は失われてしまいましたが、ヨーロッパ最大級の中世ゴシック建築として、その威容は今も人々を圧倒します。現在では、国営博物館として一般公開され、毎年開催されるアヴィニョン演劇祭のメイン会場としても利用されています。

プチ・パレ：ルネサンス絵画の宝庫

14世紀に建てられた司教館であるプチ・パレ（小宮殿）は、現在美術館として利用されています。内部には、ルネサンス期のイタリア絵画やアヴィニョン派の絵画のコレクションが充実しており、ボッティチェリの『聖母子』やクリヴェッリの『四聖人』といった名画を鑑賞することができます。19室に分かれた展示室では、13世紀から16世紀にかけてのイタリア絵画、そして15～16世紀のアヴィニョン派の絵画が、時代や画派ごとに系統立てて展示されています。

その他の建造物：ノートルダム大聖堂、ロシェ・デ・ドン、城壁

教皇宮殿の北に位置するロシェ・デ・ドン（ドンの岩壁）は、要塞のような岩壁で、現在は緑豊かな公園となっています。ここからローヌ川やサン・ベネゼ橋、対岸のヴィルヌーヴ＝レザヴィニョンなどの美しい眺めを楽しむことができます。

教皇宮殿とロシェ・デ・ドンの間に位置するノートルダム・デ・ドン大聖堂は、12世紀半ばに建造されたロマネスク様式の教会堂です。幾度となく改修を重ね、現在では1859年に設置された黄金に輝く聖母像が頂上を飾ります。内部には、ゴシック様式の教皇ヨハネス22世の墓など、見どころも多いです。

アヴィニョンを囲む城壁も、14世紀に教皇庁が置かれていた頃に建造されたものです。防衛施設としては完璧とは言えませんが、中世都市の城塞建築を知る上で貴重な遺構であり、一部は19世紀に修復されています。

アヴィニョン橋：レジェンド漂う歴史的建造物

サン・ベネゼ橋、通称アヴィニョン橋は、12世紀に建造され、かつては対岸のヴィルヌーヴ＝レ＝ザヴィニョンまで続く22のアーチを有していました。現在では4つのアーチしか残っていませんが、その歴史は人々の心に深く刻まれ、数々の歌や伝説にも登場します。橋の上で輪になって踊るというイメージがありますが、実際には橋の下の島で歌ったり踊ったりしていたようです。

世界遺産としての価値

アヴィニョン歴史地区は、人類の創造的才能を示す傑作であり、中世建築、都市計画、景観デザインの発展において重要な役割を果たした場所です。また、人類史における重要な時代を例証する建築群としても高く評価されており、これらの理由から世界遺産に登録されています。アヴィニョン歴史地区は、中世ヨーロッパの輝きを今に伝える、貴重な文化遺産です。

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