アーク・オブ・ア・ダイヴァー

スティーヴ・ウィンウッド『アーク・オブ・ア・ダイヴァー』

『アーク・オブ・ア・ダイヴァー』は、イギリスの多才なミュージシャン、スティーヴ・ウィンウッドが1980年にリリースしたソロ名義での2作目のスタジオ・アルバムです。この作品は、彼のキャリアにおいて重要な転換点となり、世界的な成功を収めるきっかけとなりました。特に、アルバムに収録されたシングル曲「ユー・シー・ア・チャンス」は、ウィンウッドを広く知らしめる大ヒットを記録しました。

制作背景

本作の制作にあたり、ウィンウッドは新たなソングライティングのパートナーとして、著名な作詞家であるウィル・ジェニングスを迎えています。ジェニングスはバリー・マニロウのヒット曲「想い出の中に」などを手がけた人物であり、ウィンウッドは以降の作品でも彼との共同制作を続けることになります。この新たなコラボレーションは、彼の音楽性に深みをもたらしました。

レコーディングは、ウィンウッドが所有するグロスタシャーの農場にあるホーム・スタジオで行われました。特筆すべきはその制作スタイルで、ウィンウッドはボーカルだけでなく、全ての楽器演奏を自身で担当しています。さらに、プロデュースやミキシングといった作業も自ら手掛けました。エンジニアリングに関しては、ウィンウッド自身とセカンド・エンジニアのジョン・クラークが協力して行いました。この「一人多役」とも言えるスタイルは、アルバムのサウンドに独自の個性を与えています。

反響と商業的成功

アルバム『アーク・オブ・ア・ダイヴァー』は、本国イギリスでは全英アルバムチャートで最高13位を記録し、20週にわたりチャート圏内に留まる健闘を見せました。

しかし、このアルバムはイギリス国外、特にアメリカで目覚ましい成功を収めました。アメリカの主要アルバムチャートであるBillboard 200では最高3位まで上昇し、ウィンウッドにとってソロ名義では初めてのトップ10入り、そして自己最高の順位となりました。この商業的な成功は、RIAA（アメリカレコード協会）によって認められ、1981年4月にはゴールドディスクに、同年6月にはプラチナディスクに認定されています。

他の国々でも好成績を収めており、ニュージーランドのアルバムチャートでは最高3位を記録し、25週連続でトップ50にランクインしました。オランダのアルバムチャートでも2週にわたり6位を記録するなど、国際的な評価を得ました。

本作からのシングルも注目を集めました。第1弾シングル「ユー・シー・ア・チャンス」は、全英シングルチャートでは45位に留まったものの、アメリカではBillboard Hot 100で7位、ビルボードのメインストリーム・ロック・チャートで2位という大ヒットとなりました。続いてシングルカットされたタイトル曲「アーク・オブ・ア・ダイヴァー」も、アメリカではHot 100で48位、メインストリーム・ロック・チャートで11位にランクインしています。さらに、「ナイト・トレイン」はビルボードのダンス・ミュージック／クラブ・プレイ・シングル・チャートで52位を記録するなど、多様なジャンルで存在感を示しました。

批評

音楽批評家からも高く評価されました。例えば、オールミュージックのWilliam Ruhlmannは、このアルバムに5点満点中4.5点を与え、「ウィンウッドのソロ名義の楽曲としては最高の"While You See a Chance"から始まる、この傑作アルバムによって、彼は完全に現代的なアーティストとして自己改革を果たした」と称賛しています。この評価は、本作が単なるヒット作に留まらず、アーティストとしてのウィンウッドの進化を示す重要な作品であることを物語っています。

収録曲

アルバムには以下の楽曲が収録されています（特記なき楽曲はスティーヴ・ウィンウッドとウィル・ジェニングスの共作）。

ユー・シー・ア・チャンス - "While You See a Chance" – 5:12
アーク・オブ・ア・ダイヴァー - "Arc of a Diver" (Steve Winwood, Vivian Stanshall) – 5:28
セカンド・ハンド・ウーマン - "Second-Hand Woman" (S. Winwood, George Fleming) – 3:41
スローダウン・サンダウン - "Slowdown Sundown" – 5:27
スパニッシュ・ダンサー - "Spanish Dancer" – 6:00
ナイト・トレイン - "Night Train" – 7:50
ダスト - "Dust" (S. Winwood, G. Fleming) – 6:19

デラックス・エディション

2012年10月1日には、ボーナス・ディスクが追加されたデラックス・エディション盤がイギリスで発売されました。ボーナス・ディスクには、以下のような未発表音源や関連コンテンツが収録されています。

"Arc of a Diver" (S. Winwood, V. Stanshall) - 4:15
アメリカ盤シングルのエディット・ヴァージョン。
"Night Train"- 6:43
インストゥルメンタル・ヴァージョン。
"Spanish Dancer"- 6:10
2010年に制作されたヴァージョン。
"Arc of a Diver: The Steve Winwood Story"- 56:33
* BBC Radio 2で放送されたドキュメンタリー番組。

『アーク・オブ・ア・ダイヴァー』は、スティーヴ・ウィンウッドが自身の音楽性を確立し、ソロアーティストとしての地位を不動のものにした決定的な一枚と言えるでしょう。革新的な制作手法と普遍的なメロディが融合した本作は、今なお多くの音楽ファンに愛され続けています。

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