アート・リンゼイ

アート・リンゼイ：ブラジルとニューヨークを繋ぐ音楽的探求

アート・リンゼイ（1953年生まれ）は、アメリカで生まれ、3歳でブラジルに移住。17歳までブラジルで過ごした経験は、彼の音楽に大きな影響を与えました。ブラジル音楽をルーツに持ちながら、ニューヨークの音楽シーンで活躍する彼のキャリアは、多様性に富み、ジャンルを超越しています。

DNA：ニューヨーク・パンク・シーンの異端児

1977年、ニューヨークでイクエ・モリ、ロビン・クラッチフィールドらと共に結成したバンド、DNAは、ニューヨーク・パンク・シーンを代表するバンドの一つとなりました。彼らの音楽性は、従来のパンクとは一線を画す前衛的なものでした。アート・リンゼイは、チューニングを施さない11弦ギターを用いた独特の演奏スタイルで、イクエ・モリの機械的なドラム、ティム・ライトの歪んだベースと相まって、ノイズ・パンクとも形容される独自のサウンドを生み出しました。

1978年のコンピレーション・アルバム『ノー・ニューヨーク』への参加は、DNAを世界に知らしめる契機となり、ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズ、ティーンエイジ・ジーザス・アンド・ザ・ジャークスなどと共に、ノー・ウェイヴムーブメントの中核を担う存在となりました。

ラウンジ・リザーズ：ジャズとの融合

DNAでの活動と並行して、アート・リンゼイは、ジョン・ルーリー率いるラウンジ・リザーズに参加。1950年代のジャズを再解釈した「フェイク・ジャズ」と称される彼らの音楽は、ノー・ウェイヴの一種として位置づけられています。この活動を通して、アート・リンゼイはジャズという新たな音楽的要素を自身の音楽に取り込んでいきました。また、この期間には、アトン・フィアーのゴールデン・パロミノスやジョン・ゾーンのLOCUS SOLUSなどにも参加し、多様な音楽家との交流を深めています。

アンビシャス・ラバーズ：ブラジル音楽への回帰

1984年、アート・リンゼイは最初のソロ・アルバム『エンビィ』を発表。その後、キーボーディストのピーター・シェラーと共にアンビシャス・ラバーズを結成します。アンビシャス・ラバーズでは、初期は七つの大罪をテーマにアルバム制作を予定していましたが、最終的には『エンビィ』『グリード』『ラスト』の3枚のアルバムを発表して活動を休止しました。このバンドでは、アート・リンゼイが自身のルーツであるブラジル音楽を積極的に取り入れ始めました。ニューヨークのアンダーグラウンド・シーンのミュージシャンを、より広い音楽シーンへと導く役割も果たしました。

ソロ活動とプロデューサーとしての活躍

1980年代後半からは、プロデューサーとしてカエターノ・ヴェローゾ、ガル・コスタらブラジル音楽界の巨匠たちをサポート。カルリーニョス・ブラウンと共にマリーザ・モンチの作品にも携わるなど、ブラジル音楽界に大きく貢献しました。また、ギタリスト、コンポーザーとして、キップ・ハンラハン、ローリー・アンダーソン、デヴィッド・バーン、坂本龍一、テイ・トウワ、大貫妙子、GEISHA GIRLSなど、数々のアーティストの作品に参加しています。

坂本龍一は、かつてアート・リンゼイについて、「譜面も読めなければ、コードもよくわからないのに、優れた音楽的センスでミュージシャンとして、さらにはプロデューサーとしても活躍している」と語っています。その言葉は、彼の類まれな才能と音楽への情熱を端的に示していると言えるでしょう。

多彩なディスコグラフィー

アート・リンゼイは、リーダー作、DNA、ラウンジ・リザーズ、アンビシャス・ラバーズなど、数多くのアルバムを発表しています。また、プロデューサーとしても数々の作品に携わっており、その活動は音楽的境界線を越えた、多岐にわたるものとなっています。彼の音楽は、ブラジル音楽とニューヨークのアンダーグラウンド・シーン、そしてジャズという、異なった音楽的要素の融合によって生み出された、独特の個性と魅力に満ち溢れています。彼のキャリアは、音楽における創造性と探究心の可能性を示す、まさに一つの物語です。

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