カエターノ・ヴェローゾ

カエターノ・ヴェローゾ：ブラジル音楽史に輝く巨匠

カエターノ・ヴェローゾ (Caetano Veloso, 1942年8月7日 - ) は、ブラジルを代表する作曲家、歌手であり、ブラジル音楽史にその名を刻む伝説的なアーティストです。ボサノヴァからトロピカリア運動、そして国際的なポップスターとしての成功まで、彼の音楽的遍歴は、ブラジル音楽のみならず、世界音楽シーンに多大な影響を与え続けています。

バイーア州での生い立ちと初期の音楽活動

バイーア州サント・アマーロ・ダ・プリフィカサォンに生まれたヴェローゾは、7人兄弟の5番目として、音楽豊かな環境の中で育ちました。彼の妹、マリア・ベターニアは、後にブラジルを代表する歌手として活躍することになります。

初期の音楽活動では、ボサノヴァの巨匠ジョアン・ジルベルトやドリヴァル・カイミからの影響を強く受けました。特にジョアン・ジルベルトからは、音楽性だけでなく、音楽家としての生き方にも大きな影響を受け、彼の継承者と呼ばれるほどです。1967年には、ガル・コスタとのデュエット・アルバム『Domingo』を発表し、純粋なボサノヴァの世界を聴かせました。

トロピカリア運動と政治的スタンス

しかし、ヴェローゾの音楽的探求は、ボサノヴァにとどまりませんでした。ジルベルト・ジル、ガル・コスタ、トン・ゼー、シコ・ブアルキ、ムタンチスといった仲間たちと共に、「トロピカリア」という音楽的ムーブメントを形成したのです。このムーブメントは、ブラジルの伝統音楽に、ビートルズなどの欧米ロックンロールや前衛芸術を取り込み、国際的でサイケデリックな、そして社会意識の高い音楽を生み出しました。

彼の政治的スタンスは、1985年まで続いたブラジルの軍事独裁政権に対する強い反発を背景とした、明確な左翼的立場でした。そのため、彼の楽曲はしばしば検閲を受け、焼き捨てられることもありました。しかし、彼の音楽が非国家主義的な思想の象徴となり、社会主義者からも距離を置かれた側面もあります。1968年には、ジルベルト・ジルと共に「反政府活動」の容疑で投獄され、ロンドンに亡命する経験もしました。

国際的な成功とブラジル音楽の融合

ロンドンでの亡命生活を経て制作されたアルバム『In London』や『Transa』は、彼の国際的なキャリアの出発点となりました。帰国後も、国際的なスタイルを保ちながら、ブラジル伝統音楽の要素を積極的に取り入れ、独自の音楽性を確立していきました。1981年のアルバム『Outras Palavras』は、ブラジル国内で10万枚を超える売上を記録し、その後もブラジル国内外でツアーを行い、アメリカ公演も果たしました。1989年のアルバム『Estrangeiro』は、アート・リンゼイを共同プロデューサーに迎え、アメリカ盤も発売されました。

2004年までに50枚以上のレコードをリリースし、ペドロ・アルモドバル監督の映画「トーク・トゥ・ハー」や「フリーダ」のサウンドトラックにも楽曲を提供するなど、国際的なポップスターとして高い評価を得ています。

後期の活動と多様な表現

1997年には、自らの初期の活動やトロピカリア運動について記した書籍『Verdade Tropical』を出版し、2002年には英語翻訳版『Tropical Truth』も刊行されました。1997年のアルバム『Livro』は、グラミー賞最優秀ワールドミュージックアルバム賞を受賞しました。また、ジョアン・ジルベルトのアルバムをプロデュースするなど、プロデューサーとしての活動も展開しています。

2004年には、初の全曲英語のアルバム『A Foreign Sound』を発表し、ニルヴァーナの楽曲をカバーするなど、その音楽的な探求は尽きることがありません。その後も、若手ミュージシャンとのコラボレーションによる三部作『Cê』(2006)、『Zii e Zie』(2009)、『Abraçaço』(2012)を発表し、常に音楽シーンの先端を走り続けています。

結論

カエターノ・ヴェローゾは、半世紀以上にわたる音楽活動を通して、ブラジル音楽の可能性を世界に示し続けました。彼の音楽は、政治的メッセージと洗練された音楽性を融合し、時代を超えた普遍性を持ちます。彼の功績は、単なる音楽家としての枠を超え、ブラジル文化の象徴として、今後も語り継がれていくことでしょう。

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