アーマンド・ハマー

アーマンド・ハマー：冷戦下の「赤い資本家」

アーマンド・ハマー（1898年5月21日 - 1990年12月10日）は、20世紀のアメリカを代表する大富豪であり、実業家です。石油会社オクシデンタル・ペトロリウムの経営者として名を馳せる傍ら、美術品収集家、社会事業家、そして親ソ連・親ロシアの財界人としても知られています。「ドクター・ハマー」の愛称で親しまれ、その波乱万丈な人生は多くの人々を魅了しました。

生い立ちと初期の活動

ニューヨークでロシア系ユダヤ人の家庭に生まれたハマーは、父ジュリアスが社会主義労働党の創設者という、政治色の強い環境で育ちました。コロンビア大学医学部を卒業後、医師免許を取得したことが「ドクター・ハマー」と呼ばれる由来となりました。

しかし、ハマーは医学の道には進まず、父の繋がりを活かして、革命直後のソビエト連邦との貿易ビジネスを開始します。医薬品の輸出から始まり、1920年代にはソ連に移り住み、ウラジーミル・レーニンとの知遇を得て、アメリカとソ連間の貿易を一手に担うようになりました。鉛筆の生産事業、フォード車の輸出、トラクター工場の建設、穀物の輸出など、その事業は多岐にわたりました。

「赤い資本家」としての活動

レーニンの死後、ソ連との貿易は一時縮小を余儀なくされます。しかし、スターリンの死後、再びソ連との貿易を回復させ、冷戦下においてアメリカとソ連を結ぶ重要な役割を果たしました。共産主義の指導者であるレーニンの信頼を得たことで、東側諸国との貿易も積極的に行い、大きな利益を上げました。酒造業、美術品の売買、石油、原子力発電など、事業分野は多岐にわたり、アメリカと共産圏の国々との国交改善にも尽力しました。1982年には、中国の鄧小平とも会談し、経済協力について話し合っています。

石油事業への進出

1957年、ハマーは独立系石油会社オクシデンタル・ペトロリウムの経営権を握ります。イラン国王やリビア国王との関係を活かして石油開発を進め、北海油田の開発などにも成功し、オクシデンタルを世界有数の石油会社に成長させました。しかし、1974年にはリビアとの石油探査契約を発表したものの、カダフィ政権による国有化により、大きな打撃を受けることになります。その後、アメリカ政府の渡航禁止措置が解除されると、リビアの石油・ガス権益への本格的な復帰を果たしました。

政界との繋がり

共和党の支持者として、リチャード・ニクソンからロナルド・レーガンまで、アメリカの指導者たちと個人的な親交を深めました。デタントの陰の立役者として活躍する一方で、その親ソ的な姿勢から反ソ連派閥からの批判も受けました。政治献金に関する不正問題も発生しましたが、当時の大統領ジョージ・H・W・ブッシュから恩赦を受けています。

社会事業と晩年

ハマーは、教育、医療、芸術分野への支援も積極的に行いました。UWCアメリカ校の開学や、チェルノブイリ原発事故の救助活動への参加などがその例です。東西冷戦の終結を見ることなく、1990年12月10日に92歳で死去しましたが、その生涯は多くの人々に影響を与えました。

受賞歴とコレクターとしての側面

ハマーは、その功績が世界中で認められ、数々の賞を受賞しました。また、印象派やポスト印象派の絵画を中心とした美術品収集家としても知られ、収集した美術品はハマー美術館に寄贈され、現在も多くの人々に鑑賞されています。レオナルド・ダ・ヴィンチの「レスター手稿」を所有していたことも有名です。

アーマンド・ハマーは、冷戦という時代において、東西両陣営を結びつけようと奔走した、稀有な存在でした。その功績と影響は、今もなお語り継がれています。

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