アーヤトッラー

アーヤトッラーとは

アーヤトッラー（آية الله）は、シーア派イスラム教における高位ウラマーに与えられる称号であり、「神の徴」という意味を持ちます。この称号は、イスラム法学、倫理学、哲学、神秘主義など、イスラムの様々な学問分野に精通した学者に与えられます。

アーヤトッラーの称号

アーヤトッラーの称号は、特定の儀式を経て授与されるものではなく、ウラマー間での合意に基づいて与えられるのが一般的です。ホウゼ（神学校）での教育を修了し、その知識と人格が師に認められた宗教学者が対象となります。

アーヤトッラーの称号を得た学者は、クルアーン、スンナ、イジュマー、アクルといったシーア派イスラム法源に基づいて独自の法解釈を行い、見解を表明することができます。これらの資格は、師から発行されるイジャーザ（免状）によって証明されます。また、アーヤトッラーはホウゼで教授職に就き、信徒からの宗教的な質問（イスティフター）に対して、参照すべき意見（ファトワー）を示すことができます。

ただし、アーヤトッラーの称号は、明確な任命によって決まるものではありません。一定の経験や著述を経て、自らアーヤトッラーを名乗り、周囲から異議がなければ認められるという側面があります。そのため、アーヤトッラーの数に制限はなく、誰がアーヤトッラーであるかを明確に判断することは難しい場合があります。

歴史的背景

イスラム教は本来、聖職者を置かず、信徒間の平等を重視する教えですが、シーア派においては、アーヤトッラーのような称号が存在し、緩やかな聖職位階制が見られます。この背景には、シーア派・12イマーム派における法学の発達、特にウスーリー派とアフバーリー派の理論が深く関わっています。

17世紀にシーア派法学が確立されると、ウスーリー派では、法解釈を行うムジュタヒドと、その解釈に従うムカッリドを区別するようになりました。その後、ムジュタヒドの中でも権威を明確にするために、アーヤトッラーという称号が現れるようになりました。当初は単なる先任者を意味するものでしたが、徐々に称号と権利が明確化されていきました。19世紀には、アーヤトッラーの称号を持つ者は少数でしたが、その後の精緻化に伴い、より上位の称号である大アーヤトッラーやマルジャエ・タクリードが登場し、アーヤトッラーの数は増加しました。

大アーヤトッラー

アーヤトッラーの中でも、特に重要なウラマーは、大アーヤトッラー（アーヤトッラー・オズマー）またはマルジャア・アッ＝タクリードと呼ばれるようになります。これは、特定のアーヤトッラーへの照会が頻繁に行われるようになり、様々な問題に対する法解釈書（リサーラ・アルミーヤ）を著すことで、その地位が確立されます。

現代におけるアーヤトッラー

現代では、イランやイラクを中心に、多くの大アーヤトッラーが存在します。彼らは、それぞれの地域におけるシーア派信徒の精神的な支柱として、大きな影響力を持っています。

西欧における認識

西欧では、アーヤトッラーという言葉は、特にアーヤトッラー・ルーホッラー・ホメイニーを指すことが多いです。1979年のイラン・イスラム革命を機に、アーヤトッラーという言葉が世界的に知られるようになったためです。そのため、アーヤトッラーは、イラン・イスラム共和国の最高指導者を指す言葉としても用いられることがあります。

また、ウェールズのラグビー選手がトライを決めた際のパフォーマンスが「アーヤトッラー」と呼ばれるなど、文化的な現象としても知られています。

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