ウラマー

ウラマー：イスラム世界の知識人とその歴史的役割

イスラム世界において、ウラマー（ulamā）は神学を始めとする様々な学問を究めた知識人を指します。日本ではイスラム法学者と訳されることもありますが、その役割ははるかに多岐に渡ります。神学者、裁判官、教授など、イスラム社会の知的・宗教的指導者層を包括的に指す広義の概念です。特にイスラム国家では、公職に就く者も多く含まれます。

ウラマーの定義と活動範囲

ウラマーは神学、哲学、法学、ハディース（預言者ムハンマドの言行録）、ア[[ラビア語]]文法学など、幅広いイスラム学問に精通した者として理解されます。その知識範囲は広く、中国の士大夫のような社会的役割も担ってきたと比較されることもあります。しかしながら、ウラマーの多くは法学者であり、特定の地位や職業を指すものではなく、知識と社会的な認知によって成り立つ概念です。

日本の報道ではスンナ派やシーア派のウラマーが聖職者として紹介されることも多いですが、キリスト教の司祭やユダヤ教のラビのような教会組織を持たず、厳密には聖職者とは区別されます。イスラム教成立以前の多神教における神と人間を繋ぐ役割を担っていた「聖職者」とは異なるからです。イスラム教では、原則として全ての信者は平等とされ、ウラマーは礼拝の指導や法解釈（ファトワー）の発布など、信徒を導く役割を担います。マドラサ（イスラム教の学校）の教師としての役割も担い、信者からの敬意と尊敬を集めますが、崇拝の対象ではありません。多くのウラマーは信者の支援によって生活を支え、日本語の感覚では聖職者と呼べるでしょう。ただし、信徒の少ない地域では、世俗的な職業を兼業する場合もあります。また、イスラム教にも聖人が存在しますが、彼らを崇拝する行為が許容されるか否かは、宗派によって異なり、サウジア[[ラビア]]のワッハーブ派では偶像崇拝と見なされ、処罰の対象となります。

他の宗教の聖職者との違い

ウラマーは、キリスト教の聖職者やユダヤ教のラビのように、神に特別に近しい存在ではありません。結婚や家族を持つこともでき、聖職者特有の制限もありません。宗教上の義務や禁忌は全ての信徒に等しく適用され、ウラマーだけが特別な扱いをされるわけではありません。クルアーンやスンナの学習は、全ての信徒に課せられた責務であり、ウラマーだけがそれを専有するわけではありません。

ウラマーの歴史的変遷

ウラマーは、アッバース朝期以降、法解釈の多様化に伴い、社会的な影響力を増大させました。支配者側はウラマーの知的な支持を必要とし、ウラマーも支配者の庇護を必要としたため、両者は相互依存関係を築きました。

ウラマーの活動により、イスラム学問は高度な発展を遂げましたが、同時に民衆とイスラム教の乖離も招き、スーフィズム（イスラム神秘主義）の台頭を促しました。ウラマーはスーフィズムを厳しく批判しましたが、その勢力を抑えることはできず、ガザーリーのような神学者の努力によって、スーフィズムは次第に伝統的な教義に取り込まれていきました。

近代化以降、国家による教育機関や官職の整備により、ウラマーの一部は職を失いましたが、イスラム圏における精神的な影響力は依然として大きく、イラクのアリー・スィースターニー師などがその好例です。

ウラマーの役割と社会貢献

ウラマーの実際の職業は、学者、マドラサの教師、カーディー（イスラム法廷の裁判官）、モスクの管理者など多様です。都市間のウラマーのネットワークは、人や物の交流を促進し、イブン・バットゥータの大旅行などがその好例と言えるでしょう。

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