イアン・スミス

イアン・ダグラス・スミスは、1919年、現在のジンバブエで白人入植者の家庭に生まれました。彼は、南ローデシア（現在のジンバブエ南部）の政治舞台に1948年、足を踏み入れ、立法議会議員や連邦議会議員を歴任しました。

スミスは、白人主導の政治勢力である「ローデシア戦線」を結成し、1964年には南ローデシア植民地政府の首相に就任します。首相在任中は、黒人による抵抗運動を徹底的に弾圧しました。彼の政治理念の中核にあったのは、少数の白人による支配の維持でした。

1965年、スミス率いる白人政権はイギリスからの独立を一方的に宣言し、「ローデシア共和国」を建国しました。この一方的な独立宣言は国際社会から強い非難を浴び、経済制裁を受けることになります。

独立後のローデシア共和国では、スミスは初代首相として、人種差別政策を推し進めます。黒人解放組織による抵抗運動は激化し、内戦へと発展していきます。長引く紛争と国際社会からの圧力を受け、スミスは1979年にイギリスの調停を受け入れる決断を下しました。

1980年に行われた総選挙で、スミス率いるローデシア戦線は黒人解放組織に敗北し、ローデシア共和国はジンバブエ共和国として生まれ変わります。スミスは1986年まで国会議員を務め、白人の権利擁護に尽力しました。しかし、1987年に白人議席が解消されると、政界から引退し、農場経営に専念しました。

表舞台から姿を消したスミスでしたが、ジンバブエ国内に依然として存在感を示し、政界復帰を模索しているという噂も流れました。晩年は南アフリカのケープタウンに移り、療養生活を送っていました。彼は、ジンバブエの初代大統領であるロバート・ムガベと対立関係にあり、最後まで政府を批判し続けました。

2007年、スミスは88歳で、自宅にて心不全のため亡くなりました。彼の死は、ジンバブエの歴史における重要な転換期に大きな役割を果たした人物の生涯に幕を閉じました。彼の政治的遺産は、今もなおジンバブエ、そして世界中で議論の的となっています。少数の白人による支配を維持しようとした彼の政策は、長い内戦と人道的な危機を引き起こし、今日のジンバブエの社会構造に大きな影響を与えています。

スミスの生涯は、植民地主義の終焉と、その後のアフリカ諸国の苦悩と発展を理解する上で重要な要素となっています。また、彼の政治姿勢は、人種差別と独立という世界的な問題に光を当てるものでもあります。彼の死後も、彼の残した功罪は様々な角度から評価され続けています。

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